- 2015.10.27
- 書評
ハルチカが本編の謎に迫る! 初野晴による、解説にかわる特別短編「究明するひと」
文:初野 晴
『運命は、嘘をつく』 (水生大海 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
本当? とツヨシくんが嬉しそうに駆け寄って来た。ポケットから飴玉を出し、わたしたちに向かって差し出してくる。包装の袋がべとついていて不衛生そうな飴だ。顔をしかめて躊躇していると、隣のハルタが笑顔で受け取った。
ほう、と眺めていたガンさんが感心する。
「彼のほうは見所があるな。ホームレスの世界に飛び込んだら、差し出されたものはどんなものでももらっておけ。なぜならみんな、あげたがり屋だからだ」
ガンさん曰く、物を持っているひと、時間があり余っているひとほど欲しがる。知りたがりの欲しがり屋。
逆になにもかもなくしてしまったひとほど、あげたがる。教えたがりのあげたがり屋。
どこかの童話みたいだな……と思った。
鞄を漁るわたしはむすっとし、唇を尖らせる。「そんなことをいわれたら、お近づきの印と思って持ってきた桃缶を渡しづらくなるじゃないですか」
ガンさんの腕が伸びた。
「もらっておく」
「なんなのよ」
桃缶をふたつ、割り箸をつけて渡す。にんじんジュース風味のキャロレモンもつけると、ガンさんが短く口笛を鳴らした。
魔法瓶の上に無理やり座るわたしと、トースターの上に腰かけるハルタの前で、ガンさんが胡座(あぐら)をかき、ツヨシくんが体育座りになる。
底の深い沈黙が生まれて、深いため息とともに、ハルタがだれにともなくいった。
「……この状況って、やけに不自然じゃありませんか?」
初対面のガンさんが顎を撫でながら、「まあ、変だよなあ」と首をひねり、ツヨシくんも、「う、うん、ガンさんがいうならそうかも」と追随している。
「チカちゃんがガンさんとツヨシくんに会いに来るシチュエーションが突飛ですし、ガンさんもガンさんで簡単に受け入れちゃうわけですし、そもそもここは東京で、ぼくたちが住んでいるのは静岡なんですよ」
そう指摘されると思ったので、わたしは引きつづき鞄の中から、「じゃじゃーん」と二冊の文庫本を取り出し、それぞれ掲げてみんなに見せた。水生大海さんの『運命は、嘘をつく』と、初野晴さんの『退出ゲーム』だ。
「チ、チカちゃん、そ、それ、いったいどこで手に入れたの?」
触れてはいけないことを恐れるように、ハルタは顔色を変えた。
「お互い小説の登場人物同士、本編とは関係ないところで、腹を割って話し合おうじゃありませんか」
「そうきたか」
舌打ちとともにガンさんが渋い顔をし、ツヨシくんは状況がわからずにきょとんとしている。ハルタが気まずそうに頭を掻き、小声で聞いてきた。
「……この四人でいったいなにを話し合うんだよ、チカちゃん」
わたしは頓着なくこたえる。
「魚住月子の予知夢の能力について」
ネタバレにかかわりますので、以降は書籍でお楽しみください
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