インタビューほか

見るに値しない人なんかいない

「本の話」編集部

『ギッちょん』 (山下澄人 著)

 書き下ろしのデビュー作『緑のさる』(2012年3月/平凡社)で昨年末に野間文芸新人賞を受賞し、一躍注目を集めた山下澄人さん。劇作家としては16年以上のキャリアをもつ。今年3月、2冊目の単行本『ギッちょん』を上梓した。その作品の魅力と人物にせまる。

勤勉は美徳ではない

――「ギッちょん」では、時を縦横に往き来して、ある男の生涯が語られていますが、主人公が若い頃にガンで父親が亡くなります。「ガンで亡くなる父親、もしくは男の話」というのが山下さんの作品には頻繁に登場します。実体験に基づいていらっしゃいますか。

山下 そうです。僕が20代の頃、50代で父は亡くなりました。

――「入院して五日後、父は死んだ。父は前の日までわたしと話していた。父は『働きすぎた』といった。父は中学を出てからずっと働いていた。父に後悔があるとすればそれだった。まったく無駄にすごしてしまったと父は心から思っていた」とありますが、ここから、黙々と働いてきた日本人全体の哀しみのようなものを感じました。山下さんは一度もサラリーマンになったことがない、ということですが、「働く」ということをどう考えていらっしゃいますか。

山下 軽蔑していますよ、昔から(笑)。勤勉を軽蔑します。勤勉は恥ずかしい。すべての害のもとだと思っています。勤勉をベースとして個人の幸福があり国家の繁栄があるとされていますけど、そこを否定します。本来、働くなんていうことは、最低限食べていくためにイヤイヤ動いている、というものじゃないですか。父の影響が大ですね。父は自分のことを「奴隷やった」と言っていました。小学生の頃から「お前が勤め人になるなんて、さぶいぼたつわ」と言われ続けていました(笑)。ぼくが商業高校を卒業する頃はバブルがはじまった時期で求人がすごかったんですよ。「いま就職しないなんてアホや」と言われていた。ぼくだけ進路を決めずに卒業して、1年くらいバイトしながら過ごして、富良野塾の募集を新聞で知って試験を受けた。

――演劇に興味があったのですか。

山下 いえ、というより、北海道に行きたかったんです(笑)。北海道かアメリカに行ってみたかった。

――「ギッちょん」にはこんなくだりもあります。「老人はいった。『ハトはアホやからすぐ食うてまいよるけど、カラスは賢いからどっかしまいにいきよるさかい』カラスがパンをくわえてすぐに食べた」(笑)。学問などで「そういうものだ」といわれていることと実際とはよく食い違うものですが、それが端的に表現されていると思いました。

山下 人が自分の体験から言えることは少なくて、大部分は「これはこうです」と言われていることで動いている。そこを別に疑っているわけでも批判しているわけでもないですけど、ただ、過信するのはおかしいと思うんですよ。疑いもなく信じて、そこから逸脱できなくなるのはつまらないです。

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ギッちょん

山下澄人・著

定価:1628円(税込) 発売日:2013年03月09日

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