- 2012.02.22
- 書評
亡き友・辺見じゅんと語り尽くした
御歌の思い出
文:保阪 正康 (ノンフィクション作家)
『よみがえる昭和天皇 御製で読み解く87年』 (辺見じゅん・保阪正康 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
作家・歌人の辺見じゅんさんと、昭和天皇の御製について1首ずつ詳細に分析してみようと話し合ったのは、3年ほど前である。
たまたま辺見さんの主宰している『弦』(弦短歌会刊)で、同年齢の誼みでお互いに関心のある昭和史について対談を行った。その折に辺見さんが、昭和天皇の御製をいくつか挙げ、その老境の心情などを解析したのである。
私は昭和天皇の御製を昭和史解明の視点で読み解いてみたいと思っていたので、いつか機会があればと約束してもらった。
それが実って2011年2月から7月までの間に都合6回ほど会って、昭和天皇の御製を編年風に語り合った。辺見さんは歌人の目で、私は昭和史理解の一助として、という立場だったので、一首を挙げてもすぐにそれぞれの立場から論じることができた。
昭和天皇の御製は昭和20年までは年に1首しか公開されていない。歌会始に紹介される分だが、ところが昭和21年からは毎年30首から40首が公開されるようになった。人間天皇としての素顔を国民に理解してもらうために、宮内庁が決めたのだろうが、これによっていわば戦後の昭和天皇の心情はより深く理解できることになった。
とはいえ私のように昭和史への関心だけで読むのでは、和歌を愛する人たちには不遜と思われてもいた。現に名のある歌人から「そのような視点だけで読むと、天皇しか用いない伝統的な表現、宮中に伝承する雅言葉などを見落としてしまう。和歌のその精神は失われてしまう」とも忠告された。
辺見さんはそういう私に助け舟をだしてくれたともいえるし、歌人から見て私の解釈に誤りがないかも点検してくれることになったのである。
6回の対談を通じて、私は辺見さんと同年(昭和14年)の生まれであり、世代体験を共有しているので、まるで同窓会にでているような感覚で対話が進んだ。小学生のころには食べ物がない時代でとうもろこし、芋、かぼちゃなどが主食だったわよね、とか、初めて日本に進駐してきたアメリカ兵を見たときの驚きなど、お互いに「そうそう」とうなずいて話がはずんだ。
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