――このたび「週刊文春」連載時から話題を呼んだ『ありふれた愛じゃない』を上梓されました。本書では、東京とタヒチ(仏領ポリネシア)を舞台に激しいラブストーリーが展開されますが、タヒチという土地を選んだのは、編集サイドからのリクエストだったそうですね。
村山 最初にお話をいただいたときには、タヒチについてこれといった知識もなく、ゴーギャンの愛した島で、青い海に水上バンガローが浮かんでいて……といった一般的なイメージしか持っていませんでした。こういうところでのんびりしたら気持ちよいだろうなと憧れはありましたが、「楽園」と言われるだけになおさら遠い場所だと感じていたこともあったと思います。この機会がなかったら、もしかすると一生行かないままだったかもしれません。
――そして、2012年の3月、連載開始の5ヶ月前に初めてタヒチ取材に行かれました。
村山 実際に行ってみると、とにかくタヒチ特産の黒真珠の神秘に魅せられました。同じ真珠と言っても、日本のアコヤ真珠とは魅力が全く異なります。養殖場やオークション会場、老舗の最高級真珠店を見て回りましたが、そのあいだに耳にした黒真珠にまつわる神話や言い伝えに、なおさら興味をかき立てられました。私、神話に目がない、いわば「神話萌え」なんです(笑)。楽園の島といっても日常生活は文明化されていて、タヒチ人も自動車に乗ったり携帯電話を使ったりしているわけですが、彼らの生命力は日本人や西洋人とは全然違う。生き物としてのポテンシャルが非常に高く、自然への畏敬の念を忘れない。そういうところからも、神話がまだ息づいている島なんだなと思わされました。