書評

子を残しにくいはずなのに、なぜ遺伝子が?

文: 竹内 久美子 (動物行動学エッセイスト)

『同性愛の謎 なぜクラスに一人いるのか』 (竹内久美子 著)

 大学で動物行動学を学ぶようになると、こんな疑問が湧いてきた。

 先ほども述べたように、同性愛者は子をまったく残さないか、バイセクシャルなら子を残すこともあるが、とにかくあまり子を残さない。異性愛者と比べ、遺伝子のコピーを残すうえで圧倒的に不利だ。なのにいつの時代にも存在し、消え去らない。それはなぜか。

 こういう自分ではあまり子を残さないのに、自分の持つ遺伝子(この場合なら、同性愛に関わる遺伝子)がなぜよく次代に残るのか、というパラドックス。

 それを解こうとする際、この分野の人間がまず考えるのは、当人は血縁者の繁殖の手伝いをよくしているのではないかということだ。

 この場合ならそのことで血縁者が血縁の近さに応じた確率で持っている同性愛に関わる遺伝子を、間接的に次代に残しているのではないかと考えるのである。「ヘルパー仮説」と呼ばれるものだ。

 実は私も同性愛のパラドックスについてヘルパー仮説的に考えたことがある。何しろ、同性愛者は天才的才能を持っているのだから、血縁者の繁殖を、その名声を武器に手助けする。たとえば「彼はあの〇〇の甥なんだって」という名誉によって甥っ子をモテモテにする。もちろん経済的にも援助する。こうして同性愛に関わる遺伝子を間接的によく残す。

 ところがこの考えには致命的欠陥があることに気がついた。こういう論理が成り立つには、文化的によほど成熟した社会が背景になければ無理なのだ。そして同性愛者は必ずしも天才的才能を持ってはいないことにもこの頃、気がついた。

 それに対して、単に血縁者の繁殖を手助けするということなら太古の昔からありえ、ヘルパー仮説はこの分野で定説であり続けたのである。

 その後、男性同性愛者が本当に血縁者の繁殖に協力しているのだろうかということで、お金のやりとりや、よく会ったり、電話で話しているか、近くにすんでいるかなど、様々な調査によってヘルパー仮説の検証がなされた。すると驚いたことに、男性同性愛者の方が血縁者と疎遠で、お金もあまりあげていないことがわかった。男性同性愛者は「ヘルパー」ではなかったのだ。

 ではどうして彼らは自分の遺伝子のコピーを残すのだろう。この点について2004年、パドヴァ大学のグループが発表したのが件の、何ともコロンブスの卵的発想による仮説。謎はついに解けたのだ。

 その仮説によれば、男性同性愛者を特徴づける女性的な面がとてもよく説明されるのである。

 サブタイトルにある「クラスに1人」だが、男性同性愛者(バイセクシャルを除く)は、同性愛に対し、あまり偏見のない社会で調査すると4%くらいと出る。つまり、クラスに1人いるかどうかという値である。あなたは必ず男性同性愛者に出会ったことがある、あるいはあなた自身がそうなのだ。

同性愛の謎
竹内久美子・著

定価:777円(税込) 発売日:2012年01月20日

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