特集

電子書籍で「戦後」を読む 70年の70冊
そして3月11日――2005年~14年

文: 文藝春秋 電子書籍編集部

三陸沖で発した「想定外」のエネルギーが、効率性、利便性を追求してきた戦後日本人の価値観を揺るがしました。果たして我々は正しかったのか? しかし、オバマ政権下のアメリカは唯一超大国としての存在感を弱めつつあり、一方で中国は膨張し続けている――世界の枠組が変化するなか、私たちは、走りながら考えてゆくしかないのかもしれません。

2005年~14年のできごと

2005(平成17)年 ハワード・ストリンガー、ソニー会長就任
『さよなら! 僕らのソニー』(立石泰則)
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2006(平成18)年 ライブドア事件
『刑務所なう。 ホリエモンの獄中日記195日』(堀江貴文)
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2007(平成19)年 iPS細胞発表
『「大発見」の思考法 iPS細胞vs.素粒子』(山中伸弥/益川敏英)
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2008(平成20)年 赤塚不二夫、死去
『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(武居俊樹)
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2009(平成21)年 バラク・オバマ、米大統領に就任
『教科書に載ってないUSA語録』(町山智浩)
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2010(平成22)年 尖閣沖中国漁船衝突事件
『平成海防論 膨張する中国に直面する日本』(富坂聰)
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2011(平成23)年 東日本大震災、福島原発事故
『カウントダウン・メルトダウン(上下)』(船橋洋一)
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2012(平成24)年 羽生善治、史上最多のタイトル81期獲得
『羽生善治 闘う頭脳』(文藝春秋編)
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2013(平成25)年 習近平、中国国家主席就任
『習近平 なぜ暴走するのか』(矢板明夫)
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2014(平成26)年 STAP細胞事件
『捏造の科学者 STAP細胞事件』(須田桃子)
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2005(平成17)年 ハワード・ストリンガー、ソニー会長就任

『さよなら! 僕らのソニー』
(立石泰則 文春新書刊行 2011年)

『さよなら! 僕らのソニー』

 盛田昭夫、井深大という偉大な経営者と、トリニトロンテレビ、ウォークマン、CDプレイヤー、子会社SCEによるプレイステーションといった魅力的な製品群。Made In Japanの輝かしい象徴として「SONY」の響きに特別な思いを抱き続けてきたソニーファンは、同社が初めての外国人トップを頂いたというニュースを複雑な思いで受け止めたに違いない。

 ソニーは、2003年1-3月期の大幅赤字発表を受けて株価が暴落した“ソニーショック”など、00年代に入って苦境に立たされた。が、ストリンガー、あるいはその後を継いだ現社長の平井一夫をもってしても、往時の輝きを取り戻すには至っていない。14年には史上初の無配に転じ、15年3月期決算は1,259億円の赤字を計上した。

 ソニーはなぜ苦しんでいるのか。なぜ、アップルのように世間を騒がす新製品をつくれなくなったのか。経営者の誰が戦略を誤ったのか。懐かしの成功物語から一転して凋落してしまった「僕らのソニー」の軌跡を、歴代経営者の肉声を交えて辿る企業ルポルタージュの決定版。

2006(平成18)年 ライブドア事件

『刑務所なう。 ホリエモンの獄中日記195日』
(堀江貴文 単行本刊行 2012年)

『刑務所なう。 ホリエモンの獄中日記195日』

 東大在学中の1996年にウェブサイト制作会社オン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を設立。急速に業績を伸ばしつつ、プロ野球球団設立への挑戦、ニッポン放送株買収、そして2005年総選挙への立候補など派手な言動を繰り広げ、IT時代の寵児となった堀江氏。

 しかし、その陰で東京地検はライブドアに狙いを定めていた。

 1月6日、同社本社に家宅捜索が入った。偽計取引・風説の流布の容疑を固めた東京地検は堀江氏らを逮捕。法廷闘争の末、11年には懲役2年6カ月の実刑判決が確定、収監された。

 地に堕ちたホリエモン、しかし彼のバイタリティは些かも減じなかった。獄中でびっしり日記を書いてスタッフに送付。ほぼリアルタイムでのメルマガ発行という型破りのムショ生活。それをまとめた第一弾が本書である。

 作業工としての担当は? 獄中メシで何キロ痩せた? 面会にきた茂木健一郎氏らと何を語ったのか? 塀の中でもホリエモン節は健在だ。

 13年、仮釈放された堀江氏は、関心を抱いていた宇宙開発事業に本腰を入れるとともに、新会社を設立するなど、相変わらず人生のOn The Edgeを楽しんでいる。

2007(平成19)年 iPS細胞発表

『「大発見」の思考法 iPS細胞vs.素粒子』
(山中伸弥/益川敏英 文春新書刊行 2011年)

『「大発見」の思考法 iPS細胞vs.素粒子』

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは何か。京都大学iPS細胞研究所ではこう説明している。

「人間の皮膚などの体細胞に、極少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します」(同研究所ウェブサイトより)

 つまり、これをもとにさまざまな細胞をつくり出すことのできる、万能細胞。しかも本人の体細胞を用いるから拒絶反応がない。再生医療をはじめ、さまざまな応用が期待される、まさに夢の発明だ。

 2007年、ヒトのiPS細胞生成成功を発表したのが、山中伸弥博士率いる京大のグループだった。世界に与えたインパクトは大きかった。早くも12年に山中氏はノーベル生理学・医学賞を受賞。現在も引き続き、iPS細胞応用の研究に注力している。

 その氏が、08年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英博士と対論を繰り広げているのが本書である。まさに夢の顔合わせ。世紀の発見、そのとき頭脳では何が起きているのか。生命論、脳の神秘から発想法、日常の勉強法まで、知的刺激の詰まった一冊。

2008(平成20)年 赤塚不二夫、死去

『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』
(武居俊樹 単行本刊行 2005年)

『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』

「私も、あなたの数多くの作品のひとつです」

 8月7日午前、宝仙寺(東京都)でおこなわれた赤塚不二夫の葬儀で、タモリは弔辞をこう結んだ。炎天下に駆けつけた多くのファンたちは、「天才バカボン」の主題歌がかかる中、出棺を見送った。

「おそ松くん」「ひみつのアッコちゃん」「もーれつア太郎」――数多くの傑作を遺した希代のギャグ漫画家の人生は、多様なエピソードに彩られている。旧満州に生まれ、敗戦後、引き揚げの過程で二人の妹を喪う。父親はシベリア抑留から生還したが一家は貧困に苦しんだ。漫画との出会い。石森章太郎とトキワ荘に同居し、藤子不二雄らと腕を磨き合い、超人気作家となる。タモリ、山下洋輔、美空ひばりらとの華やかな交友。二度の結婚。そして2002年、脳内出血で倒れ植物状態となる……。

 赤塚の傍らには、常に編集者がいた。その代表格こそ“武居記者”である。1966年小学館に入社し、「少年サンデー」に配属されるや赤塚番に。以降、編集者人生を赤塚に捧げ尽くした。そんな男の書いた本が面白くないはずがニャイ。ハチャメチャ交流36年、武居記者なら全部書いてもいいのだ!

2009(平成21)年 バラク・オバマ、米大統領に就任

『教科書に載ってないUSA語録』
(町山智浩 単行本刊行 2012年)

『教科書に載ってないUSA語録』

「Yes, we can」「Change」といったキャッチーな言葉を掲げ、大統領選を勝ち抜いたバラク・オバマ。1月20日、アフリカ系として史上初となる米国大統領就任を果たした。47歳、長身痩躯、浅黒い肌。世界が新しいアメリカの誕生を予感した。

 6月、映画評論家、町山智浩氏が「週刊文春」にて「言霊USA」の連載を始める。米国在住の氏が、日常生活やテレビなどで耳にした米国の新しい言葉、流行り言葉、バカげた言葉などを紹介していくコラムだ。

 Birthers(オバマがケニア生まれだと信じる人々)、Frenemy(友達ぶった敵)、Greater Fool Theory(もっとバカがいる理論)、Chinamerica(中国とアメリカの運命共同体)……大統領が替わったくらいで国が変わるはずもない。氏が毎週ヘンテコな言葉で切り取っていくアメリカは、やっぱりヘンテコな国だった。

 連載をまとめた本書から、新聞、テレビ、ウェブでは分からない“オバマの時代”のアメリカが、名言、失言、流行語を通して見えてくる。町山ワールド全開、一級のアメリカ批評本だ。

2010(平成22)年 尖閣沖中国漁船衝突事件

『平成海防論 膨張する中国に直面する日本』
(富坂聰 単行本刊行 2009年)

『平成海防論 膨張する中国に直面する日本』

 日本固有の領土である尖閣諸島。かねてよりここに野心を示していた中国だったが、9月7日、日本領海を侵犯して操業していた中国漁船が、海上保安庁の巡視船に体当たりするという事件が起きた。海上保安庁は船長を逮捕したが、24日、突如釈放。政治的判断による決着が囁かれた。

 日本が世界有数の海洋国家であることは、普段あまり意識されない。しかし海上では日々パワーゲームが行われている――この事件は、我々に改めて冷厳な現実を突きつけた。

 事件以降、海への膨張の欲望をますます高める中国に、日本はいかに対処すべきか。また、調査捕鯨船団と環境テロリストが激突する南氷洋、ソマリア沖の海賊、北朝鮮不審船……海をめぐる問題から、我々は何を学び取ればいいのか。いまもっとも信頼される中国ウォッチャーのひとりである富坂氏が深層を取材。

 2014年、文庫化された際、新たに「中国海警局 その戦略的意味」を付した増補版。今日本人に求められているのは、「冷静さ」だ。

2011(平成23)年 東日本大震災、福島原発事故

『カウントダウン・メルトダウン(上下)』
(船橋洋一 単行本刊行 2013年)

『カウントダウン・メルトダウン(上)』

 政府や官庁から独立した科学者、弁護士、ジャーナリストらにより、福島第一原発事故の原因と被害の拡大について調査すべく設立された福島原発事故独立検証委員会=民間事故調。2012年3月、民間事故調が発表した調査・検証報告書は大きな話題を呼んだ。報告書は書籍化され10万部を超えるベストセラーとなり、また、その内容を内外のメディアが繰り返し報道した。

 民間事故調を指揮したのが、元朝日新聞主筆の船橋氏。氏はそれ以降も独自に閣僚、浪江町、飯舘村、米国などに取材。福島第一原発事故の“世界を震撼させた20日間”を、ノンフィクションとして本書に結実させた。

 極限状況下、日本政府、アメリカ政府、軍、東電はどう動いたのか。神は細部に宿るというが、数々のエピソードが叙事詩のように積みあがっていくさまは圧巻。特に米国務省要人、米NRC要人らへのインタビューにより、米国があのときどのように動いたかが本書で初めて明らかになった。第44回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

2012(平成24)年 羽生善治、史上最多のタイトル81期獲得

『羽生善治 闘う頭脳』
(文藝春秋編 ムック刊行 2015年)

『羽生善治 闘う頭脳』

 戦後昭和の将棋界に君臨した大名人、大山康晴。彼のタイトル累計80期獲得という偉業は、誰も超えられないと思われていた。

 しかし7月5日、羽生善治が挑戦者の中村太地六段に3連勝し棋聖位の防衛に成功。単なる通過点であるかのように、あっさりと81期目のタイトルを獲得した。

 2015年6月現在、44歳の羽生は7タイトル中4冠を保持しており、累計獲得数を91に伸ばしている。数年後、あっさり100の大台に乗せることを疑う者は、まずいまい。

 1985年、15歳でプロデビュー。91年以来24年間、少なくとも1冠以上を保持。96年2月、史上初の7冠独占を達成。通算対局数500超、通算勝率7割超の双方を満たす唯一の棋士――。羽生善治は、あまりにも強い。

 闘いへのモチベーションを失わず、最強であり続けている彼の発する言葉は、将棋の枠には収まらない含蓄に満ちている。本書は氏の全面協力のもと、新規ロングインタビュー、作家・沢木耕太郎氏との対談を中心に、各誌が掲載してきた記事を5つのキーワードで分類し構成。ここには、羽生流の発想のヒントが詰まっている。

2013(平成25)年 習近平、中国国家主席就任

『習近平 なぜ暴走するのか』
(矢板明夫 単行本刊行 2012年)

『習近平 なぜ暴走するのか』

 2012年秋、中国共産党総書記の座に習近平が就いた。翌13年3月には国家主席にも就任。名実ともに、中国は胡錦濤時代から習近平時代に移行した。

 世界最大の13億人を擁する、世界第2位の経済大国。そのトップに立つ人物にしては、習近平の人となりは知られていない。毛沢東、鄧小平のような強烈なカリスマは、習からは漂ってこない。産経新聞中国総局の矢板氏は指摘する。

「習近平は、共産党歴代最高指導者の中で実力は最も弱いといわざるをえない。(略)外交では強硬的である一方、国内では『反腐敗キャンペーン』を掲げ、次々と汚職高官を摘発している習近平政権は、一見すると強力であり、ともすれば『暴走』気味にすら映る。だがそれは、政権運営の脆弱さの裏返しでもあるのだ」(「まえがき」より)

 軍の台頭、少数民族との対立、汚職問題、民主化への対応。共産党独裁の矛盾が噴出するこの国を、習近平は御してゆくことができるのか。それとも覇権国家“最後の皇帝”となるのか。

 14年の文庫化にあたりアップデートされたこの最新版に、すべての答えはある。

2014(平成26)年 STAP細胞事件

『捏造の科学者 STAP細胞事件』
(須田桃子 単行本刊行 2015年)

『捏造の科学者 STAP細胞事件』

「須田さんの場合は絶対に来るべきです」

 始まりは、理化学研究所・笹井芳樹博士から届いた1通のメールだった。1月28日、「iPS細胞を超える発見」と喧伝する理研の記者会見に登壇したのは、若き女性科学者、小保方晴子氏。氏は高らかに刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP細胞)の発見を宣言した。

 これはまさにノーベル賞級。興奮とフィーバーに酔っていた毎日新聞科学環境部の取材班。しかし、取材を進めていくと、疑問がひとつ、またひとつ増えていく。これは歴史的発見どころか、科学史に残るスキャンダルになる……!

 7月、論文撤回。そして8月、笹井博士の自死という最悪の展開に至る。

 STAP細胞報道をリードし続けた毎日新聞。その取材の中心となった女性科学記者が書き下ろした「深層」。誰が、何を、いつ、なぜ、どのように捏造したのか――? 第46回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。



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