しかも、第1次大戦の戦後処理の問題が、そのまま第2次大戦の原因になっています。つまり、第1次大戦と第2次大戦を分けて考えるよりも、2つを継続したものとして「20世紀の31年戦争」と捉えた方がいいわけです。
第2次大戦の敗北しか経験していない日本人には、第1次大戦の重要性はなかなか理解できません。しかし、ヨーロッパの人々には、第2次大戦以上の衝撃を与えました。たとえば、20世紀のキリスト教神学に大きな影響を与えたスイスの神学者、カール・バルトの思想は、「危機神学」とも言われますが、その重要著作『ローマ書講解』は、第1次大戦が終わった1918年に書かれています。
この戦争で生じた「危機」は、いまだに解決されていません。
今日においても、「危機」を覆い隠すかのように、一見、宗教には見えない、ある種の「信仰」が人々を動かしています。
たとえば、金融デリバティブのような形を纏っている「マネー資本主義」。これは、マルクスの言う「擬制資本」(労働によって作りだされる現実資本に対して、土地や株式など、所有しているだけで地代や配当が入る資本)の存在が信じられているかぎりにおいて機能する資本主義です。いわば一種の「宗教」です。「学歴信仰」というのも、これによって生活を保障されるかぎり、ひとつの「宗教」と言えるでしょう。
重要なのは、今日のマネー資本主義の危機も、学歴信仰の危機も、第1次大戦以来の啓蒙主義の危機の反復である、ということです。
近代という枠を外れても生き残っている既成宗教を今日学ぶことの意味は、ここにこそあります。
カトリックにしろ、仏教にしろ、大多数の既成宗教は、プレ・モダンなイメージをもつことによって、近代以降の世界を生き残ろうとしています。こういう既成宗教の考え方は、実は、ポスト・モダン思想より、はるかに強靱なものです。今日まで既成宗教が引き継いできたものを「伝統」と呼ぶこともできるでしょう。
しかし、こういう「伝統」は、ある範囲の外ではなかなか通用しません。そこで、既成宗教の内側と外側の世界の“橋渡し”として、この本をつくりました。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。