――この『甦るロシア帝国』の舞台は1992年、ソ連崩壊直後の新生ロシアです。佐藤さんは当時、外交官であると同時に、モスクワ大学で学生たちに神学の講義をされていました。なぜこの時期を書かれたのですか?
ひとつは、自分の思想的な成り立ちを明らかにするためです。『国家の罠』(新潮文庫)で鈴木宗男事件を、『自壊する帝国』(新潮文庫)ではソ連崩壊を書き、そのなかで北方領土返還になぜ懸命に取り組んだか、つまりは私の国家観を説明してきました。
ではなぜ国家について考えるようになったのか。同志社大学神学部時代の学生運動を描いた『私のマルクス』(文春文庫)に続いて、そのテーマを振り返ったのがこの作品です。
もうひとつは、私が教えたモスクワ大学の学生たちの優秀さと、国家のために役立つという使命感に、空恐ろしさを感じたこと。この人たちが知識人として社会の中心になる時、ロシアは新たなる帝国として「甦る怪物」のような存在になる予感がしました。
――たしかに、学生たちの真剣さにうたれました。国家が崩壊して学費にも苦労し、生活のため裕福な外国人の愛人になる女子学生もいる。そんな中で学問にくらいついていく。
モスクワ大学は日本でいえば東大・京大・早慶上智を全部合わせたような存在で、ロシアの超エリートです。国家の知的活動、イデオロギーは自分たちが担うのだという気概がある。
実は、旧ソ連の歴代書記長の中で、大学教育を受けたのは、初代のレーニンと最後のゴルバチョフだけです。「政治指導者は労働者・農民の代表」という不文律がありましたから。
――学生たちからは、学問だけでなく、進路や人生のさまざまな問題についても相談を受けるようになります。
まだ30代前半で学生たちと年齢も近いし、外国人だからしがらみがないし、カネもありましたからね。外交官の在外手当があるし、インフレでルーブルが極端に弱かったから。学生たちに資料整理のアルバイトを捻出して援助することもできました。
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