――その彼らが、いま40代から50代を迎え、プーチン体制の下支えをしているわけですね。
ええ、国会議員や、官僚では局長クラスの幹部になっています。私の政治的師匠であるブルブリスは、彼らの世代を「第3のエリート」と呼びました。「第1のエリート」が共産主義時代のエリート、「第2のエリート」はロシアの過渡期にエリツィンとの人間関係で出世したいわば「偶然のエリート」。プーチンもここに含まれます。
――文庫版では、「プーチン論 甦った帝国主義者の本性」100枚を新たに書き下ろされました。
3月の大統領選挙でもプーチンが再選されるでしょう。ロシア人にとって選挙は「悪い候補者」「うんと悪い候補者」が天から降ってきて、とんでもない人を排除する制度でしかない。いわば古代ギリシャの「陶片追放」が基本なんです。「北方領土を返すなら日本に原爆をもう1度落とせ」と暴言を吐くジリノフスキー自由党党首や、「尊敬する人はスターリン」と公言するジュガーノフ共産党委員長は、あぶなすぎて選べないだけのこと。
――プーチンが「強いリーダー」だから、うまく国家を運営できているわけではないのですか。
それよりも、かつての混乱はもう厭だという市民層の安定志向が強いからです。20年前の国家崩壊、その後のモスクワ騒擾事件で、ロシア人は疲弊した。改革よりむしろ停滞を選ぶ。それがロシア人の皮膚感覚でしょう。だから昨年末の反政府デモも広がりを見せなかった。「ロシアの春」は来ないと私は思います。
――では、タイトルどおり「ロシア帝国は甦った」といえるのでしょうか。
むしろ、帝国として甦るために、ソ連の崩壊があったのだといえます。
21世紀の資本主義社会では、帝国しか生き延びられません。そのための帝国の再編がEUであり、アメリカを中心としたTPPであり、ロシアのユーラシア同盟です。では日本の帝国としての再編はどうあるべきか。オーストリア=ハンガリー二重帝国にヒントがある、と考えているところです。
――本書を日本の大学生に読んでほしい、と最後にあります。
国家が崩壊しても、真摯に学び、祖国を愛する若者さえいれば、復興は可能だということを知ってほしい。
これから日本はかつてなき学歴社会に突入します。東大の9月入学やTPP加入で国際交流が進めば、今までのように18歳の時点の記憶力ではなく、国際的な学位が当然になる。ほんとうの知力、生き残る力をみ取るために学問があることを、混乱期のロシアの若者から学んでほしいですね。