- 2010.11.20
- 書評
知識が力となるために
文:池上 彰 (ジャーナリスト)
『風をつかまえた少年――14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』 (ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー 著/田口俊樹 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
大人たちが見向きもしない素朴な疑問にとりつかれた少年は、疑問を独力で解くことにしました。
「何かを実現したいと思ったら、まずはトライしてみることだ」
これが、少年の信念でした。
自転車のライトの灯も、水力発電も、原理は同じ。そのことに気づいた彼の興奮ぶりをお読みください。
「このときぼくがどれほど興奮したか、とてもことばにはできない。単語の意味がわからなくて困ることはあったけれど、図で示された概念はわかりやすく、すんなりと把握(はあく)できた。さまざまな記号――プラスとマイナス、回路の中の乾電池とスイッチ、電流の向きを示す矢印――もただそれだけで完全にすじが通っていて、ほかにはなんの説明も要らなかった」
「まるでぼくの頭の中にはずっと以前からそうした記号が収まるべき場所が確保されていて、本で記号の存在を知ったとたん、あるべき場所にぴたりとはまったかのようだった」
私たちが、「わかった!」と、思わず膝を打ちたくなるのは、この瞬間なのです。
電力が、開発途上国にとって、どれほど大切なものか。ウィリアム少年は、マラウイが貧困から抜け出せない理由のひとつとして、電気の欠乏を挙げています。
電気がないので、森林を伐採して燃料にする。これを繰り返していくうちに、豊富な森林は次第に姿を消していきます。砂漠化が進みます。木材を手に入れるためには、遠くまで行かなければなりません。薪を入手するためだけに、大量の時間が浪費されます。森林が消滅したために、大雨が降ると洪水となり、土砂がダムに流れ込み、水力発電所のタービンは止まり、停電が起きます。発電所は川の浚渫(しゅんせつ)をせざるをえなくなりますが、費用がかかるため、電力会社は電気料金に費用を上乗せします。「電気はいっそう高価で、庶民には手の届かないものとなる」。安価で豊富な電気があれば、こんな悪循環から脱出することができるのです。
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