- 2010.11.20
- 書評
知識が力となるために
文:池上 彰 (ジャーナリスト)
『風をつかまえた少年――14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』 (ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー 著/田口俊樹 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
地球温暖化を防止するために、自然エネルギーを活用しようという主張があります。もちろんそれも大事なことですが、自然エネルギーの利用は、そもそも人々を貧困から救い出してくれるのです。そのことを、ウィリアム少年は、身をもって示してくれました。
アフリカにとって、教育が、いかに大切なものか、この本は教えてくれます。充分な教育が普及していないマラウイでは、長い間人々が魔術に支配されてきました。各地に「魔術師」がいて、エイズですら魔術で治そうとしてしまうものですから、エイズはかえって蔓延(まんえん)します。
日照りが続くと、ウィリアム少年が作り上げた風車が雲を吹き飛ばしているのではないか、という疑心暗鬼に駆られた人々が、風車を敵視してしまうほどです。
かつてイギリスのブレア元首相は、「重要政策は三つある。それは、教育、教育、教育だ」と語りました。それは、アフリカにこそ当てはまります。
二〇〇九年夏、私は、アフリカのスーダンとウガンダを取材しました。内戦で荒廃したスーダンを立て直すため、人々は学校の再建を目指していました。
ところが、学校の建物はすぐに建設できても、児童生徒を教える先生がいません。そこで、先生を養成しようということになりますが、先生を養成する大学の先生が足りません。
まずは、先生を教える先生を育て、それから先生を養成する。そののち、ようやく子どもたちに教育できるようになるのです。
そういえば、戦前の日本の田舎では、高等小学校を出ただけで学校の代用教員になる人たちがいました。日本も、同じような道を辿って、ここまで来たのです。
知識は力なり。ウィリアム少年は、身をもって示しました。知識が力となるためにも、教育が必要なのです。
教育があれば、アフリカの各地に風車が立ち並び、人々は電気を手に入れ、森林は回復する。森林が甦(よみがえ)れば、アフリカは、豊かな自然を使って発展できます。
知識は力なり。それはアフリカばかりではありません。日本も同じこと。かつて深刻な不況と財政赤字に直面した北欧の国フィンランドは、教育に投資することで国の発展を目指しました。それが、学力世界一の国、IT王国フィンランドを生みました。
日本の子どもたちが、ウィリアム少年のように目を輝かせながら、学校の図書館で本をむさぼり読む。こんな日の来ることを願っています。