- 2010.11.20
- 書評
知識が力となるために
文:池上 彰 (ジャーナリスト)
『風をつかまえた少年――14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』 (ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー 著/田口俊樹 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
学校の図書館で出合った本がきっかけで、人生が切り開かれていく。
学ぶということが、これほどまでに人生を豊かにしてくれるとは。私たち日本人が忘れていたことを、この本は教えてくれます。
東アフリカの最貧国マラウイを、二〇〇一年に飢饉(ききん)が襲います。農家の十四歳の少年は、学費が払えないために中等学校に行けなくなりました。しかし、向学心に燃える彼は、初等学校の図書室に通って、独学で本を読み始めます。そのときに出合った本が、『物理学入門』と『エネルギーの利用』。これを読むうちに、発電のしくみが理解できるようになります。しくみを学ぶと、風車を使えば電気がつくれることに気づきます。
電気代が払えない貧しい人たちでも、自力で風車を建設すれば、電気のある生活が送れる。そのことに気づいた彼は、とうとう自力で風力発電の装置をつくってしまいます。 「風をつかまえた」のです。
これが知られたことがきっかけとなって、彼は、中等学校に再び通えるようになります。それどころか、南アフリカの高校に進学。遂には二〇一〇年九月、アメリカの名門・ダートマス大学への進学を果たしました。彼は、人生の「風をつかまえた」のです。
これは、現代のシンデレラ物語のようにも見えますが、そうではありません。教育が、いかに大事なものであるかを、私たちに教えてくれるのです。
子どもの向学心には限界がありません。子どもたちの素朴な疑問・好奇心に応えることが、どれだけ社会にとって必要なことなのか。それを知らせてくれるのです。
ウィリアム・カムクワンバ少年は、いつも物が動くしくみに興味を持っていました。ラジオはどうして遠くの声を伝えるのか。自動車は、どうやって動くのか。CDプレーヤーは、どんなしくみで音が出るのか。少年は、大人たちに訊いて回ります。ところが、大人たちは、「誰ひとりきちんと答えられる人はいなくて、みんなただ笑って首を振るばかりだった」のです。
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