- 2013.04.18
- 書評
若い社員に急増。企業はどう対処すべきか?
文:小堺 正記 (NHK大型企画開発センター チーフ・プロデューサー)
『職場を襲う「新型うつ」』 (小堺正記 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
病気か、それとも甘えか……。
放送後、各種メディアで激しい議論を巻き起こしたNHKスペシャル「職場を襲う“新型うつ”」の書籍化である。“新型うつ”とは、気分が落ち込むなどして休職に追い込まれることもあるものの、一方で趣味や旅行など、私生活はエンジョイできるケースが多く、周囲の理解を得にくいうつ症状を指す。従来型のうつ病が真面目なタイプの中高年世代に多いのに対して、この“新型うつ”は20代から30代の若い世代に多く見られるのが特徴である。“新型うつ”は「新型うつ病」ではない。これは誤植でも省略でもなく、正式な「病気」として認定されていないことを意味する。精神科医の間でも“新型うつ”は病気か否かという根本的な部分で見解が分かれており、“新型うつ”の症状を示す社員であっても、会社に提出される診断書には単に「うつ病」としか記載されない。その結果、会社の人事担当者や管理職が処遇に困ったり、周囲から「怠けではないのか」という反発の声が上がり、職場が疲弊していくケースが相次いで報告されている。
疲弊する職場
筆者がうつ病治療をテーマに番組を制作するようになったのは、7年ほど前。当時は抗うつ薬の過剰投与など、「不適切」な投薬と診断に対する問題提起が取材の中心であったが、その頃から「従来型のうつ病とは異なる症状を示す患者が増えてきているらしい」という声を取材現場でたびたび聞いた。正直、筆者も当初は「趣味を楽しめるくらいだから、そんなに深刻な問題ではないのではないか」と見ていた。
その認識を改めたのは、東日本大震災の直前に放送したドキュメンタリー番組「追跡!AtoZ」で、向精神薬のドカ飲みで救急病院に搬送される若者たちの実態を知った時だった。取材した北里大学病院救命救急センターの精神科医は、救急搬送されるうつ病患者の多くが“新型うつ”で、その数は年々増え続けていると指摘したうえで、「投薬履歴に『うつ病』という診断がついているものだから医師は従来型うつと同じような処方をするが、“新型うつ”には薬が効かない。症状がよくならないからと、次々に別の抗うつ薬を出してしまい、症状は改善しないのに薬の量が増えていくという悪循環に陥ってしまう」と、その危険性を訴えたのだ。決して見過ごすことのできない“新型うつ”。一体どのくらい広がっているのか、取材当初はまったく見当がつかなかった。何しろ「病気」と規定されていないのだから統計がない。そこで私たちは、東証1部・2部、およびマザーズに上場している企業約2200社にアンケート調査を行った(有効回答・512社)。その結果は、驚くべきものだった。
「5年前と比べて、“新型うつ”の社員の増減はありますか?」という問いに対して「増えた」と答えたのは、全体の50%にあたる255社。「減った」と答えたのは、わずかに10社(2%)だった。さらに「社員が“新型うつ”になったことで、職場にどんな影響が出ましたか?」(複数回答)という問いに対して、「周囲の社員の仕事が増えた」(249社)、「周囲の社員の士気が下がった」(174社)と回答した企業が圧倒的に多かった。“新型うつ”が日本の企業社会を蝕んでいく深刻な実態が浮かび上がったのである。
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