書評

つながる思い、つながる命

文: 大矢 博子 (書評家)

『花の鎖』 (湊かなえ 著)

『花の鎖』の表紙を見ると、甦ってくる思いがある。

 2011年3月。

 本書の単行本の発行と時期をほぼ同じくして東日本大震災が起きた。

 仕事とは言え、しばらくは本を読もうという気持ちになれずにいた私が、震災後、初めて手にした小説が『花の鎖』だったのだ。

 当時の湊かなえは、デビュー作『告白』に代表されるような、どちらかと言えば後味の悪い作品を中心に発表していた。イヤミス、という冠で呼ばれることも多かった。なぜあの状況で、彼女の本を手にとったのか覚えていない。仕事だったのか、それともただ現実逃避したかっただけか。

 けれど意外なことに、それは「イヤミス」ではなかった。殺人事件もないし、負の感情を掘り下げることで人物を描く場面もなかった。むしろ命への讃歌だった。震えた。

 巡り合わせというものは、あるのだと思った。あのとき私は確かに、『花の鎖』に救われたのである。

 内容の話に移ろう。

 本書の主人公は、3人の女性だ。

 ひとりめは、両親を亡くし、祖母が入院したタイミングで失業してしまった梨花。彼女は思いあまって、Kというイニシャルしかわからない人物に、借金を申し込もうとする。誰なのかまったく知らないのだが、Kは母の生前から定期的に豪華な花を送ってきており、両親の死後には梨花に経済的な援助を申し出てくれたこともあるのだ。梨花はKを探そうとしたが――。

 ふたりめは、結婚3年目で、夫に尽くすことが幸せの美雪。ところが美雪の従兄が父親の会社から独立・起業した際に夫を引き抜いていったのである。親戚のしがらみで断れなかったとは言え、新しい事務所で、思い通りの仕事ができているのか心配する美雪だったが――。

 そして3人目は、水彩画教室の講師をしつつ和菓子屋でバイトをしている紗月。ある日、彼女のもとに学生時代の友人から会って欲しいという手紙が届く。それは紗月にとって思い出したくない出来事を再度突きつけられるようなものだったので、1度は断ったのだが、事態はそれを許さず――。

 この3人の物語が1章ずつ、順に語られる。共通する商店や地名が出てくるので、おそらく同じ町に住んでいるのだろう、というのは早い段階で気がつくのだが、もちろん話はそこで終わらない。この3つの物語がどう絡んでくるのかがポイントだ。そこに謎があり、仕掛けがある。

【次ページ】浮かびあがる美しい“鎖”

花の鎖
湊かなえ・著

定価:590円+税 発売日:2013年09月03日

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