――早寝、早起きは、いつごろからの習慣なんですか。
伊坂 結婚してからですね。前は夜型だったんですよ。結局、奥さんが寝ている間が一番自由じゃないですか。そうすると、早朝は確実に、彼女が寝ているわけで(笑)。起きて、まず一時間くらいでメールとかいろいろ雑作業をする。そのあと空いた時間で小説を書く。それから、うちの奥さんが出勤するのと一緒に僕も家を出る。いつも八時半くらいに、ドトールにつく。
――ドトールでどのぐらい粘られる?
伊坂 気が弱いんで、二時間が限界でベローチェに移動します(笑)。ハシゴですね。仙台中の喫茶店を歩きまわってますよ。あ、ただ、最近、ぼくちょっと贅沢になってきたのか、天狗なのか(笑)、ドトールがスターバックスになってきつつあるんですけどね。値段がすこし高いけどいいか、みたいな。朝はスタバのほうが空いているんですよ。禁煙なのも、いいかなと思って。
――影響を受けた三人のうち、手塚治虫で『七色いんこ』というのはなかなか渋い選択ですね。
伊坂 これはたぶん、ぼくにすごい影響を与えてます。最終回が切ない話なんですよ。この、悲しいんだけど、前向きなやりきれない雰囲気というのがすごい好きなんですよねえ。そういう面ではかなり影響があります。それまで一話完結のお話がコンスタントに続いて、最後にすべてそこに集約されるような大きい物語が来る。そしてラスト、なんといっても舞台に上がっていくシーンで終わるっていうところ(注・『七色いんこ』は天才的な代役専門の怪盗が主人公)、あれがぼくにはすごい感動的で。実は、新潮社の担当者さんもこの漫画が好きで、それをお互いに告白し合ってから、心の友になれたような気がしますね(笑)。講談社から、『手塚治虫漫画全集』って四百冊くらい出ているんですけど、買うのが夢なんです。
――『叫び声』は最初に出会った大江作品だそうですね。
伊坂 大江さんはぼく大学時代にはじめて読んで、あんまり知識とかないから、「ああ、すごい作家が出てきたなあ」とか思っていて(笑)。それでうちの親父に言ったら、「俺んときからいる」と言われちゃって。当時はああいう小説をよく知らなかったので、衝撃を受けました。主人公が若い男の子で、三人出てきて、という組み合わせはその影響でなのか、結構好きですね。『チルドレン』でも三人男が出てくるとか、影響されているかもしれない。
――コーエン兄弟はなかでも『赤ちゃん泥棒』。
伊坂 もう、『赤ちゃん泥棒』です。この作品がなければ、コーエン兄弟にここまでの思い入れはない、というくらい好きですね。ファニーな感じっていうのがいいです。『赤ちゃん泥棒』はレーザーディスクでも持ってるし、DVDでも持ってるしみたいな。ジャン=ジャック・ベネックスの『IP5』も、もうあらゆる媒体で持ってるぐらい好きなんですけど、匹敵しますね。ニコラス・ケイジのいい人っぷりが泣けてくるほど好きなんです。関係ないのですが、『重力ピエロ』でグラフィティアートが出てくるのは、『IP5』の影響があるのか、って時々訊かれるんですよね、あの映画も主人公がグラフィティアートを描くし。たぶん、影響はあるんでしょうね、めちゃくちゃ観ていましたから(笑)。
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