この度、エッセイ集「ウエザ・リポート」が装いも新たに「ウエザ・リポート 笑顔千両」として文庫化されることとなった。
このエッセイ集は、もの書きとなったばかりのほやほやの頃からおよそ十年間、あちこちに書いた雑文をまとめたものである。
文庫になってどうなのよ、と訊ねられても格別の感慨めいたものはない。ないのだが、ゲラを読み返してみると、私は全くあけっぴろげで構えない人間だなと改めて思う。
だいたい、初対面の方に対しても私は警戒心をあまり抱かない。故に構えることがない。私が気さくに接すれば、相手も気さくに応えてくれると信じているからだ。私の担当についてくれた編集者、取材に訪れた新聞記者達は概ね私に対して好意的であった。しかし、本当は少し違っていたのではないかと、今になってふと思うことがある。
私は台所の片隅に仕事机を置き、そこで執筆している。その執筆スタイルは今でも変わっていない。だが、現場を確認するま で半信半疑だったと述懐する者もいた。
本当だったのかと驚く者に私も驚く。つまり、私が台所で執筆していると言ったのを謙遜と受け取っていたらしいのだ。着ている洋服を褒められて「ほんの寝間着よ」と応えるような類である。それが隠れもない真実だとわかると、改めて驚くのだ。驚きの次に彼らはとまどいを覚えるようだ。豪華な書斎は、いやと言うほど見たが、宇江佐さんの場合は特別でした、と。
それは感心というより呆れていたのだろう。私は、どんな環境でも書く奴は書くの、などと応えていたが、執筆現場など見せるべきではなかった。私は彼らのイメージするところの作家の顔をしなければならなかったのだ。もう、遅いけれど。
豪邸に住み、高級車に乗り、年に二、三度海外旅行へ出かけるようなリッチな暮らしをしている作家に編集者は畏敬の念を持つ。ぽっと出の作家が分不相応な仕事部屋を普請すると、ローンでやっと手に入れた狭いマンションのリビングをしみじみ眺め、わが身との違いに嘆息する者もいる。
私が彼らの羨望の対象にならないことが僅かな救いである。誰が寂れた地方都市の古びた家で暮らしたいと考えるだろうか。
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