- 2013.08.14
- 書評
「若者の愚行」を貫いた調査が、気づかれざる日本を描き出す
文:呉 智英 (評論家)
『ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎』 (堀井憲一郎 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
若い者が少しぐらいバカなことをやれない社会は衰弱する。そんな社会は余力がないからである。堀井憲一郎の学生時代の蛮カラぶりを綴った文章を読むと、つくづくそう思う。しかし、堀井は、若くなくなってからも、バカなことを続けた。『ホリイのずんずん調査』である。1995年春から2011年の夏まで足かけ17年も目的不明の調査報告を「週刊文春」に連載した。連載開始の年、堀井は37歳、終了した年には53歳になっている。
柳田国男が日本中を歩き廻り、各地の方言やら冠婚葬祭の習俗やらを調べた頃、好事家の愚行のように思われたらしい。今和次郎が街角で婦人の髪型や履物を観察した時も、やはり同じような扱いだった。しかし、そんな愚行にもちゃんと文明論的な意味があった。それは民俗学や考現学となって、我々は我々を知ることができるのである。
『ホリイのずんずん調査』も、堀井が意図しようがしまいが、20世紀末から21世紀初めにかけての日本の日常の気づかれざる一断面を描き出している。
連載回数は792回に及んだ。その中から100本を堀井が自選して、今回単行本化された。「食べてみるの章」「外に出て調べるの章」「一生懸命調べるの章」など、一応はテーマごとに区分がしてある。しかし、区分の意味より、堀井の関心の持ち方が中心だ。報告はどれも冗舌戯文調でありながら、データだけは奇妙に詳細で、つい読みふけってしまう。