書評

巨人対怪物の頂上決戦

文: 緑 慎也 (ジャーナリスト)

『ぼくらの頭脳の鍛え方』 (立花隆、佐藤優 著)

「刀を研(と)ぐように、文章を練るんです。ほんのちょっと言葉を付け足したり、削ったりするだけで文章はぐっとよくなる」

 砥石(といし)で刀を研ぐように、割り箸を小刻みに前後させながら、立花隆さんが語る。

「研げば研ぐほど、刀は鋭くなる。鋭い刀は相手を深く突き刺すことができる。文章も同じなんです」

 こう言って立花さんは、脇を締め、両手で持った割り箸を胸から前方へ一気に突き出した。

 場所はネコビル(立花事務所)近くの中華料理店。時刻は深夜二時を回っていた。今から十二年前の冬のことである。どんな話の展開から、立花さんが「文章を書く上での心構え」を語ったのか、もう思い出せない。割り箸を使って、熱っぽく話す様子だけが深く印象に残っている。

 当時私は大学二年生で、立花さんのゼミ「調べて書く、発信する」を受講していた。このゼミの活動は、大学内外の人に話を聞き、それを文章にまとめ、インターネットで発信すること。他の講義よりもよほどこちらのほうが面白く、どんどんのめりこんだ。私は進学に必要な単位を落としつづけ、留年を重ね、ついに大学を中退してしまった。それはともかく、最初は先生と学生の関係として、現在は著者と編集者あるいは(昔風に言えば)書生的な関係として、立花さんとの付き合いをつづけている。

 鋭い刀のように、相手の胸を抉る文章を書くとはどういうことか。それが実感的にわかったのは、中華料理店で話を聞いてだいぶ経ってからだ。そのとき立花さんは、原稿の締め切りをギリギリいっぱい引き延ばして執筆していた。目に殺気が漲(みなぎ)り、本当に相手(批判対象)の胸をグサッと突き刺さんばかりの勢いが感じられた。学生時代以来馴染んできた優しい顔とはちがう、鬼の形相がそこにあった。

 ところで私は昨年四月、出版社を退職してフリーになったばかりのころ、月刊誌の企画で、佐藤優さんら国際情勢分析のエキスパートによる座談会に構成担当として同席した。私には弱い分野だったので、何とか話についていこうと必死だったが、少しうつむき加減で睨(ね)め上げるような佐藤さんの目を見ながら「この目、どこかで見たことあるぞ」と気になった。後からそれが、立花さんの目に似ていることに思い当たった。それ以来、佐藤さんと仕事をさせていただく機会が数回あり、そのたびに立花さんと佐藤さんが似ているという思いは深まっていった。

ぼくらの頭脳の鍛え方
立花 隆・著 , 佐藤 優・著

定価:987円(税込) 発売日:2009年10月20日

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