書評

巨人対怪物の頂上決戦

文: 緑 慎也 (ジャーナリスト)

『ぼくらの頭脳の鍛え方』 (立花隆、佐藤優 著)

 二人の類似点を三つ挙げてみよう。まず二人とも、親がキリスト教徒の家庭で育っている。キリスト教が二人の精神形成上、大きな役割を果たしている。

 二点目、立花さんは二十歳のころ、佐藤さんは十五歳のころ、どちらもヨーロッパのあちこちを旅している。佐藤さんの『私のマルクス』(文藝春秋)や、立花さんの『思索紀行』(書籍情報社)を読むと、若いころのヨーロッパ体験が、それぞれのその後の人生に大きな影響を与えていることがよくわかる。

 立花さんは田中角栄金脈研究を通して、単なる傍観者の立場を越え、政治のプレーヤーとして言論活動を行っていた時期がある。一方、佐藤さんも鈴木宗男事件でプレーヤーとして政治の表舞台に立つという経験をしている。ジャーナリストと外交官というちがいはあるが、どちらも政治プレーヤーとなった経験を持つ。これが三点目。

 このように似たバックグラウンドを持つ佐藤さんと立花さんが対談をすれば、きっと面白いはずだと私は確信していたから、本書『ぼくらの頭脳の鍛え方』の構成をすることになったとき、願ったり叶ったりだと思った。

 だが、二人の対話は、いい意味で、予想を裏切るものだった。お互いの波長が合った議論が進むかと思ったらむしろその逆。キリスト教に対する考え方もちがえば、教養に対するとらえ方もちがう。マルクスをめぐって、カントをめぐって、ポパーをめぐって激しく意見が対立する。しかし、意見のちがいが際だつほど、対話はどんどん刺激的になっていった。それぞれ二百冊ずつを挙げ、ブックリストを作り上げたが、そのコメントの付け方もちがう。一冊ずつ同じぐらいの分量でコメントを付ける佐藤さんに対して、立花さんは作品ごとにコメントの長さがバラバラ。二人のスタイルのちがいがブックリストによく現れている。ただし、世界を知りたいという純粋な知的好奇心にもとづく、尋常ではない量の読書体験によって頭脳を鍛えてきたという点では、二人は見事に一致している。

 編集者として対峙する立花さんは、押しても引いてもびくともしない巨岩のようである。原稿のチェックをお願いしてもなかなか見てもらえない。ところが、いざ動きだすと、雪の斜面を転がる雪玉のように止まらない。本書においても立花さんの加筆部分がどんどん膨らみ、さらにそこに佐藤さんの書き込みが加わり、という具合に編集作業が進行した。知の巨人、知の怪物とも呼ばれる二人にふさわしい、ボリュームのある本になった、巨人対怪物の頂上決戦(?)を存分にお楽しみいただきたい。

ぼくらの頭脳の鍛え方
立花 隆・著 , 佐藤 優・著

定価:987円(税込) 発売日:2009年10月20日

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