書評

かめばかむほど……

文: 吉本 由美 (エッセイスト)

『するめ映画館』 (吉本由美 著)

  いかにも小粋な作品のお好きそうな中野翠さんが、大河ドラマのような「愛と宿命の泉」を選んでこられたり、糸井重里さんが「初恋のきた道」でキュンとなっていたり、リリー・フランキーさんの不思議な習性など、映画の話をすることで、その人の意外な一面を垣間見る回もありました。毎回、面白い話を短くまとめるのにはずいぶん苦労しましたが……。

和田誠さんの登場でさらにディープな世界へ

  さて、あるとき特別篇として、和田誠さんと村上春樹さんをゲストに迎えて「フィルム・ノワール」について語っていただくことになりました。これは今までの「一回一作品」をやめて、フィルム・ノワールの名作四本について話し合う、という企画で、ものすごく面白かった。この座談会で、和田さんの驚異的な映画に関する知識と記憶力が明らかになりまして、あまりの博学ぶりに村上さんと私はただただ唖然とするばかり(笑)。

 残念なことにこの回を最後に「TITLe」は休刊になってしまったんですが、和田さんの膨大な映画の記憶は、正倉院の宝物と同じく、定期的に虫干しするべきじゃないか、ということで、「するめ映画館」は同じ文藝春秋の雑誌「オール讀物」で不定期座談会として継続することになりました。連載がグラビア雑誌から読み物雑誌に移ったので、私の口調もちょっとおしとやかになっています(笑)。

 今度はページにも余裕があったので、「ミュージカル映画」「野球映画」「サラリーマン映画」とテーマを決め、一回に四~六本ずつ作品を観ていったのですが、ここからさらにディープな世界が展開しました。和田さんって、野球のルールもわからないのに野球映画を語り始めたら止まらないんですよ(笑)。よくもこんなにたくさんの映画が頭の中に入っているものだと驚きっぱなしでした。「生き字引」の和田さんに、「調べ物名人」として対抗していた村上さんも、最後の「潜水艦映画」の回でついに「底が好き」という本性を現しました(笑)。その「潜水艦オタク」ぶりは、ぜひ本書をお読み頂ければと思います。

 今回「するめ映画館」では皆が隠し持っている“名画”を掘り起こしましたが、私はもともと「隠れたものを掘り起こす」ことが大好きで、そうした掘り起こし作業を“するめ仕事”と呼んでいます。これからも映画に限らず、さまざまなものを噛みしめて味わっていこうと思います。

 とりあえず和田さんは映画に関してはまだまだ全然お話しし足りないらしく、次回は「画家の映画」をテーマに、また集まって話をする計画が進行中です。

するめ映画館
吉本 由美・著

定価:1400円(税込) 発売日:2010年10月28日

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