書評

『ビーンボール』解説

文: 鷲田 康 (スポーツジャーナリスト)

『ビーンボール』 (本城雅人 著)

 さて、本書に登場する「ゼニバ」こと善場圭一は、金の亡者と忌み嫌われ、選手のためならどんな手段も厭わない代理人である。

 事務所は東京の神楽坂で自宅は代々木のおそらく瀟洒な高層マンション。愛車のアウディを駆って都内の高級ホテルで球団関係者と契約交渉の駆け引きを展開する。交渉術に長け、いつも最後は選手に最も有利な契約を引き出してしまう。

 これはまるで映画の世界である。

 ただ、この物語に出てくる善場に妙な魅力を感じるのは、クライアントに対する過剰なまでの愛情と、その愛情を貫くためのたゆまぬ努力にあるような気がする。

 例えば事務所に5台の大型画面のテレビとビデオを据えて、そのすべてのテレビはケーブルチャンネルと契約している。そうしてクライアントの出場する試合は、すべてビデオに撮って観る。テレビ中継のない2軍の試合なら実際に足を運んででも観戦する。クライアントの状態は、すべて自分の目で見て把握するというのが彼の決まりなのである。

 物語は冒頭から進行するエース級の投手のフリーエージェント交渉と、一度は契約を解除された元クライアントのスラッガーの行方探し、その二人の高校時代の過去の事件へと結ばれて展開していく。そしてこのストーリーの縦糸になっているのが、善場の選手に対して注ぐ忠誠と愛情というわけだ。

 もちろん善場という主人公の存在感が本書の一番のカギだが、もう一つ、本城さんの小説を読んでいて、物語に引き込む磁力のようなものになっているのがディテールのリアリティーだと感じている。

【次ページ】

ビーンボール
本城雅人・著

定価:700円+税 発売日:2014年03月07日

詳しい内容はこちら