米・ロサンゼルスのウエストハリウッドにある瀟洒なビル。そのワンフロアを貸し切った広いオフィスはめちゃくちゃかっこ良かった。ドアを開けて受付に行くと、そこではモデルかと思うような若い男女が白い歯をキラキラ輝かせて「ハーイ!」と出迎えてくれる。
絵に描いたようなアメリカのスポーツビジネスの世界。それはまるで映画のようだった。
「テレムはいまクライアントと会議中なので、しばらく待って欲しい」
来意を告げると、電話でやりとりをした男モデルにこう言われて会議室のようなところに通された。時刻は確か午後1時をちょっと回ったぐらいだったと思う。
それからその会議室でテレム氏に会えたのは、約5時間後のことだった。
約束の時間からこれほど取材対象が遅れてきたのは初めてだったが、そんな最長の待ちぼうけが吹っ飛ぶくらいに驚いたのが、会議室に入ってきたテレム氏の様子だったのである。
「まるでゾンビみたいだ……」
その瞬間の印象だ。
長い会議で心身ともに疲れ果て、目はうつろ、肌はかさかさ、言葉にまったく張りもない。服装もよれよれのシャツにセーターとジーンズ。その出立ちには、とても年間何百億円の契約をまとめ、自身も数億円の報酬を稼ぐ敏腕代理人の面影はなかった。
あとで話を聞くと、ちょうどNBAの契約シーズンで、クライアントの選手本人がいるフロリダと両親のいるダラスをテレビ電話でつないで延々と会議を続けていたのだという。
しかもその会議は、この日で終わるのではなくまだ数日続くとも言っていた。
「クライアントだけではなく家族も満足しないといい契約にはならない。だからそう簡単に話がまとまることはない。我々に一番必要なのはペイシェント(忍耐力)だ」
テレム氏が苦笑いして語ったように、実は代理人とは表に見える華々しい世界とは裏腹である。実態は意外と地味でゾンビのようになるまでクライアントの要求に耳を傾け、それを実際のお金(契約)に替えていかなければならない。
過酷で地を這うような仕事でもあるわけだ。