2010年の日本人の平均寿命は男性が79・64歳、女性は86・39歳でした。65歳以上の人口が総人口に占める割合は23・0%と過去最高だったそうです。
有史以来、初めて経験する高齢社会において、私は現在の高齢者を「前例のないライフスタイルを開拓している人々」と位置づけています。介護をはじめ加齢に伴う諸問題こそありますが、それらも前例のないライフスタイルなればこそ、という見方も可能でしょう。
もっとも、私が高齢者を「前例のないライフスタイルの開拓者」と捉えるようになったのは、「年を取ったら枯れる」という古くからのたとえが俗説、迷信であることを教えられたからです。
私は13年前、老人ホームにおいて入居者同士が「人生最後の恋」を謳歌し、生き生きとしている数々の事例を把握しました。笑顔が多くなり、身だしなみにも配慮し、食欲も湧き、リハビリにも積極的に取り組み、ADL(日常生活動作)が向上する……恋の効能は大なるものがありました。
そして、青年期、壮年期に比較すれば程度の差こそあるものの、深夜、夜勤の職員の目を盗んで性行為に至る場合も少なくないことも知ったのです。
「若い頃と違って毎日はできない。でも、これが人生最後のSEXかも、と思うから味わい深い」という若い世代が意識することはない「生の証し」でもあることも教えられたのでした。
私は当時30歳。「年を取ったら朽ちて死んでゆく」という思い込みは一変し、「死ぬまで恋ができるのはなんと人間的ですばらしいことか。年を取ることは恥ずかしいことではない」と新たな価値観を見出しました。
そうした想定外の老後の姿を追い、高齢者の恋愛と性をテーマとして本作は4冊目となります。2000年3月にこのテーマで初めての新書を刊行した当時、高齢者の恋愛と性は「いいトシをして」とタブー視する傾向がまだ強かったような気がします。現在は、週刊誌をはじめ各メディアでは不可欠とも言うべきテーマとなりました。読者や視聴者の関心も高くなったのは、60歳、65歳で定年退職を迎えてから、10年、20年という時間をどう過ごすか、と思案する中で、「自らの性とどう向き合うか?」に関心が高まり、人様にはなかなか相談できない問題を深刻視している人も多いからでしょう。