ミナ ペルホネンの洋服を見ていて、服それ自体が内側から歌っているようだな、と思ったことが何度もあるけれど、ああ、それはこういうことだったのか、と読んでいくうち、どんどん腑に落ちる。そこで聞こえる音楽は、作り手の皆川さんが聞いた音と、それを見る人が聞きたいものとが合わさり、重なってできている音楽なのだ。それは決して押しつけがましくなく、着る人の数だけ音楽に幅があって、各自が勝手に楽しむ自由を、私たちに許してくれる。着る人の想像力を信じてくれている、とでも言ったらいいだろうか。
ファブリックのデザインは、実際にあるものをそのままモチーフにするということはほぼありませんね。(42P)
たとえば、「tambourine(タンバリン)」は、球のひとつひとつが不均一で、いい意味で不完全です。日本の焼き物には、不完全なところに景色を見るところがありますが、そういう美意識を説明し、僕らのテキスタイルのよさとして気に入ってもらえたと思います。(152P)
本書を読むことは、そうしたファブリックのデザインがどこから来るのかを知る旅に出るようなもの、という感覚が一番近い。
皆川さんが、昔長距離の選手だったこと、魚市場のマグロの値段から何を見ていたのかということ、北欧の旅、洋服作りの現場やブランドにおける自分の役割を駅伝に喩えること、各章ごと、皆川さんの言葉で運ばれる場所で見える景色のどれもが、今のミナ ペルホネンに繋がっている。皆川さんのものづくりに対する姿勢や見方、仕事のスタイルは、ファンだけでなく、多くの人にとっても示唆に富んだ内容であると思うから、ぜひ、いろんな人に知ってほしい。こういう考え方を持ってそれを実際に形にしている人がいると思うと、それだけで少し、勇気と元気が湧いてくる。
中でも、私が感銘を受けたのは、皆川さんの「今は100年後に向けての準備期間」という言葉だ。あるいは、「自分の人生を超えて続いていくものを作りたい」という言葉。
それを聞いて、私の中で、また一つの光景が弾けた。
先日、テレビ番組に皆川さんが出演されているのを偶然見かけた時のことだ。うちの2歳になる子供が突然、テレビの前で立ち上がり、「かーか! かーか!」と一生懸命に画面を指さし始めた。え? と思って、画面を見ると、私が持っているのと同じミナの「bird(バード)」の、形違いのワンピースが皆川さんの作品として紹介され、映っていた。
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