ミナ ペルホネンのオリジナルファブリックの一つに「yuki-no-hi(雪の日)」という作品がある。
等間隔に並ぶ電柱と、その上に降る雪。電柱を繋ぐ電線は緩やかにカーブをつけて冬の空にどこかはずむようで、小さな鳥が上にぽつぽつと身を寄せている。
見た瞬間に「うわぁ」と心が浮き立つのがわかった。この光景を知っていると思ったのだ。まだ小学生の頃、雪の降る道を集団登校して、寒さに手袋の中でぎゅっと手を握り、ただ早く学校に着かないかなぁと空を見ていたあの日のことを思い出す。子供だった私は、その日の空を美しいともきれいだとも思わなかった。けれど、過ぎ去ったはずの光景は、密かに心の底で息づいていて、ミナ ペルホネンの一着のワンピースの上で、懐かしさとともに再構成された。その時私は、図々しいこと覚悟でこう思ったのだ。これは、私のために作ってもらったワンピースだと。
もちろん、そんなことがあるはずはない。けれど、ミナ ペルホネンを愛する多くの人が、そんなふうに、皆川さんに幸福に勘違いさせてもらってミナを着ているのではないかな、と思う。どのファブリックに惹かれるのかは人それぞれだけど、惹かれた瞬間、その人の中できっと弾ける光景や音楽があって、それが合致した瞬間に、その服を身につけたいという気持ちに駆られる。
本書『ミナを着て旅に出よう』は、そんな服を届けるミナ ペルホネンのデザイナー皆川明さんが、ブランド誕生までの軌跡と、ご自身のものづくりへの真摯な姿勢を端正な言葉で綴った、小さな宝物のような一冊だ。
この本の中で、皆川さんは「クリエイションの現場では、様々な音が聞こえてきました」と書いている。「tambourine(タンバリン)」のときは、耳をすまさないと聞こえてこないような打楽器の音、「choucho(チョウチョ)」では口笛のような小さな音楽。