書評

団塊世代の生きざまを明るみに出す
濃密な人間ドラマ

文: 香山 二三郎 (コラムニスト)

『衆 1968 夏』 (堂場瞬一 著)

 前置きが長くなった。本書『衆』はその全共闘運動の活動家だった初老の政治学者を主人公にした長篇サスペンスである。

 鹿野道夫は六三歳、マスコミでも名の知られた選挙を専門とする政治学者だ。地方の名門私大である母校・麗山大学に新設された地域政治研究所の初代所長に抜擢され、彼は久しぶりに古巣に戻ってくる。かつては「都会の発展にすっかり取り残された田舎町」だった麗山市も高速道路が出来、大規模開発が進むなど変貌を遂げていた。

 そんな街を散歩中、彼はかつての仲間・実川誠の姿を見かける。四三年前、麗山大学は全共闘運動の拠点だった。鹿野は革青協麗山支部執行委員会の幹部として、医学部の学費値上げ反対闘争に端を発する騒動の中心にいた。実川はそのときの闘争副委員長だったが、戦略家の彼は大学側との団交を意図的に拒否。バリケードを挟んだ学生たちと警察側との睨み合いは鹿野の投石がきっかけになったように激しい衝突へと転じた……。

 いっぽう、鹿野のかつての教え子で今は麗山市市議会議員である石川正は、若手議員の板橋から麗山南高校の校内で麻薬のやり取りが行われているという情報を得ていた。そのとき鹿野の再就職のことも知らされる。程なく当の鹿野から呼び出された石川は久しぶりに恩師と再会、彼の用件は麗山市の過去の選挙を研究するための協力要請だった。そしてもうひとつ、四三年前に麗山大で学生と機動隊の衝突があった際、ひとりの高校生が亡くなった事件――「麗山事件」の真相追求にも協力を乞われるのだった。

 そのとき死亡したのは市内在住の高校一年生、石川智英。鹿野は彼の死は武装した機動隊によるものだという疑いを捨てていなかった。「警察は一応捜査したのだが、石川に致命傷を負わせたのが誰か分からない、と結論を出しただけで、早々と事件を閉じてしまったのだ」。鹿野は長らく釈然としないものを抱えて生きてきたが、そんなとき舞い込んだのが麗山大での新たな仕事だったのである。

 かくて物語は鹿野の麗山事件の追求を軸に進んでいくが、それにしても、著者は何故全共闘世代を主人公にした話を書こうと思いついたのか。「自著を語る」によれば、「この小説を書き始めるきっかけは、雑談でした。同世代の編集者と、団塊の世代に対する恨みつらみで盛り上がってしまった。世代論は『上から下』へ語られることが多いですが、逆パターンを狙って、時代の空気を切り取れないかと考えたのです。実は、団塊の世代は苦手。社会人になったころ、仕事でつき合うことが多かったのですが、私たちは新人類とレッテルを貼られ、いびられました(笑)。彼らは何かが起こると、一斉に同じ方向を向く。それがバブル経済と、その後の日本の凋落の原因かもしれません。接することが多かっただけに、あの世代の考えや行動パターンについては、ずっと疑問を抱いていたのです」(「オール讀物」二〇一二年六月号)。

 なるほど鹿野が全共闘運動に参加したのは、権力による差別や弾圧への反発、是正であり、社会の改善をこいねがう純粋な動機に駆られてのこと、権力との闘いに正面からぶつかっていった情熱的若者だった。一九六八年には、フランスで学生と労働者が組んだ民主化運動――五月革命が起こり、日大、東大で結成された日本の全共闘には党派に属さない学生たち(ノンセクト・ラジカル)も数多く参加、運動は全国規模に拡大していった。鹿野の政治的な情熱には、そういう時代的な影響もあったろう。

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衆 1968 夏
堂場瞬一・著

定価:本体630円+税 発売日:2015年07月10日

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