- 2010.08.20
- 書評
翻訳界の「ドリーム・チーム」が伝える
連合国、 枢軸国双方の子どもたちの日記
文:「本の話」編集部
『私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった』 (サラ・ウォリス、スヴェトラーナ・パーマー 編著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「アンネ」を凌ぐ魅力
最高の翻訳者たちの手によって、原文のもつ魅力は、あますところなく引き出された。
ドイツによって包囲されたレニングラードは、食糧の補給が途絶える。じりじりと食べ物がなくなっていくなか、母親と妹の食べ物をくすねて飢えを満たすユーラ・リャビンキン。包囲が解かれた後、餓死した少年とともに発見されたその日記は、亀山郁夫によって生々しく再現されている。
〈糖蜜菓子はぜんぶ家にもちかえるべきだが、でも我慢できず、お菓子のせめて四分の一は食べてしまうだろう。まさしくそこにぼくのエゴイズムが出ている。でもぜんぶを持って帰るようにする。ぜんぶを! ぜんぶを! ぜんぶを!!! ぜんぶを!!!
(中略)去年のクリスマスの夜を、夢のように思い出している。明るいろうそくのついたクリスマスツリー、たくさんのごちそう、オードブルや、いろんな甘いお菓子がいっぱいあったイブの晩餐!……〉(百二十九頁)
パリ在住の少女ミシュリーヌ・サンジェは、進駐してきたドイツ軍に嫌悪感を露わにするが、敵であるはずのイタリア人将校をひとめ見た途端、恋に落ちてしまった。河野万里子は、ミシュリーヌの思春期の鼓動をはずむような日本語で伝えている。
〈彼はわたしにキスしなかった。日記さん、あなたには正直に書くけれど、もし彼がそうしたがったら、わたしはさせたと思う。どうして彼がそうしなかったかわかるなら、わたしは完璧に幸せになれるのに。彼が明日の六時の長距離バスで発つのでなかったら、それ以上に幸せになれるのに〉(二百二十五頁)
ウッチの強制居住区(ゲットー)に幽閉された氏名不詳のユダヤ系少年は、『ほんとうの豊かさ』というフランス語の本の余白に、イディッシュ語やポーランド語などで日々の出来事を記録し続けていた。判読するのも難しい書き込み(二百七十五頁の写真参照)を、関口時正は丹念に読み解き、ソ連軍がワルシャワに迫ってきた時の少年の胸中を、こう蘇らせた。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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