書評

翻訳界の「ドリーム・チーム」が伝える
連合国、 枢軸国双方の子どもたちの日記

文: 「本の話」編集部

『私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった』 (サラ・ウォリス、スヴェトラーナ・パーマー 編著)

「アンネ」を凌ぐ魅力

  最高の翻訳者たちの手によって、原文のもつ魅力は、あますところなく引き出された。

 ドイツによって包囲されたレニングラードは、食糧の補給が途絶える。じりじりと食べ物がなくなっていくなか、母親と妹の食べ物をくすねて飢えを満たすユーラ・リャビンキン。包囲が解かれた後、餓死した少年とともに発見されたその日記は、亀山郁夫によって生々しく再現されている。

〈糖蜜菓子はぜんぶ家にもちかえるべきだが、でも我慢できず、お菓子のせめて四分の一は食べてしまうだろう。まさしくそこにぼくのエゴイズムが出ている。でもぜんぶを持って帰るようにする。ぜんぶを! ぜんぶを! ぜんぶを!!! ぜんぶを!!!

(中略)去年のクリスマスの夜を、夢のように思い出している。明るいろうそくのついたクリスマスツリー、たくさんのごちそう、オードブルや、いろんな甘いお菓子がいっぱいあったイブの晩餐!……〉(百二十九頁)

 パリ在住の少女ミシュリーヌ・サンジェは、進駐してきたドイツ軍に嫌悪感を露わにするが、敵であるはずのイタリア人将校をひとめ見た途端、恋に落ちてしまった。河野万里子は、ミシュリーヌの思春期の鼓動をはずむような日本語で伝えている。

〈彼はわたしにキスしなかった。日記さん、あなたには正直に書くけれど、もし彼がそうしたがったら、わたしはさせたと思う。どうして彼がそうしなかったかわかるなら、わたしは完璧に幸せになれるのに。彼が明日の六時の長距離バスで発つのでなかったら、それ以上に幸せになれるのに〉(二百二十五頁)

 ウッチの強制居住区(ゲットー)に幽閉された氏名不詳のユダヤ系少年は、『ほんとうの豊かさ』というフランス語の本の余白に、イディッシュ語やポーランド語などで日々の出来事を記録し続けていた。判読するのも難しい書き込み(二百七十五頁の写真参照)を、関口時正は丹念に読み解き、ソ連軍がワルシャワに迫ってきた時の少年の胸中を、こう蘇らせた。

私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった
サラ・ウォリス・編著 , スヴェトラーナ・パーマー・編著 , 亀山 郁夫・ロシア語訳 , 河野 万里子・フランス語訳 , 関口 時正・ポーランド語訳 , 赤根 洋子・ドイツ語訳 , 田口 俊樹・英語訳

定価:1995円(税込) 発売日:2010年08月07日

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