- 2010.08.20
- 書評
翻訳界の「ドリーム・チーム」が伝える
連合国、 枢軸国双方の子どもたちの日記
文:「本の話」編集部
『私たちが子どもだったころ、世界は戦争だった』 (サラ・ウォリス、スヴェトラーナ・パーマー 編著)
ジャンル :
#ノンフィクション
構成のさいに工夫したのは、時系列順に、複数の登場人物が互いに『会話』をしてゆくように章を組み立てることでした。
当初は三、四人の子どもたちの日記・手紙類だけで構成するつもりでしたが、結局、登場人物は十六人にまで増えました」(スヴェトラーナ・パーマー)
さらに、著作権継承者の許可を得るという作業もあった。
「あらゆる手段と人脈を通じ、世界に散らばった著作権継承者(著者本人もしくは家族など)と連絡をとりましたが、これには膨大な時間と労力がかかりました。幸い、連絡がついた本人や家族たちは、写真を提供してくれたり当時の記憶を話してくれるなど、みなとても協力的でした」(サラ・ウォリス)
このような困難の末、約五年をかけて本書は完成した。
原典を入手し、最高の翻訳者に依頼
日本語版を出版するにあたり、ひとつの問題が浮上した。英国版『We were Young and at War』(コリンズ社、二〇〇九年)は英語で書かれているが、登場人物たちが遺した日記・手紙類の原文は、それぞれの母国語(ロシア語、ドイツ語、日本語など)で書かれている。当然、原書はそれらの英語訳である。原書の英語を日本語に翻訳したのでは、母国語→英語→日本語と、翻訳を二回重ねることになってしまう。これでは原文がもつ独特のニュアンスが失われかねない。
そこで日本語版の編集部では、各言語で書かれた日記・手紙類を入手し、それぞれの言語から日本語へ直接翻訳することを目指した。原文のもつ生々しさ、特有のリズムをいかすには、この方法がベストだと思われた。
著者二人は編集部からの提案を快諾し、各国語で書かれた日記・手紙類の原文の提供を約束したうえで、二〇〇九年夏、約二カ月かけて原文の引用部分と原書(英語)の翻訳対照表を完成してくれた。そして同年十月、ロンドンでこれらの資料一式を受け取ることができた。
もうひとつ編集部が目指したのは、各言語の第一人者たちに翻訳を依頼することであった。緊迫した情勢の中で十代の若者たちが綴った言葉の息づかいを、実力ある翻訳者の筆によって、リアルな日本語に再現したいと考えたためである。二〇〇九年秋、ロンドンで受け取った資料を片手に、各言語の第一人者たちに翻訳の依頼を開始した。
ロシア語は、『カラマーゾフの兄弟』(光文社古典新訳文庫)をはじめドストエフスキーの新訳シリーズで知られる亀山郁夫。フランス語は、サン=テグジュぺリ『星の王子さま』、サガン『悲しみよ こんにちは』(二作とも新潮文庫)など名作を手掛けてきた河野万里子。ポーランド語は、ポーランド文化全般に造詣が深い関口時正。ドイツ語は『ヒトラーの秘密図書館』(文藝春秋)など話題作の実績がある赤根洋子。そして英語は、ローレンス・ブロックをはじめミステリー翻訳の大御所的存在である田口俊樹。
個々の若者の日記・手紙の持つ力が訳者たちを魅了し、翻訳界の「ドリーム・チーム」が組まれることになった。
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