ノーベル賞受賞者のノート
日本初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹(物理学賞)は、授賞式の記者会見において「論文がまとまったのは寝床の中です」と言っています。常に枕元にノートを置き、寝しなに何かを思いつくとすぐにノートにメモをしていたそうです。また、彼の大学時代のノートは、流れるような文字で講義の内容が記されていて、気迫が伝わってくる美しいノートでした。
「天才」と称された湯川に対し、「秀才」と称されたのが、二人目の受賞者・朝永振一郎(物理学賞)です。彼は、何かを思いつくと封筒やチラシなどの紙を持っては、食卓や縁側に座り、頭に浮かんだことを書き留めたといいます。その癖は学生時代からのようで、大学時代の教科書の欄外には細かい文字でメモがびっしりと書かれていました。
そして三人目は、文学賞を受賞した川端康成。代表作である『雪国』の創作メモは、原稿用紙の裏面にアイデアを殴り書きし、使用したものから斜線で消すというスタイルをとっています。ここからは、執筆時の緊張感がまざまざと伝わってきます。中学時代は作文の成績が八十八人中八十六番と、決して「成績優秀」な秀才ではなかった川端ですが、小説家となってからは、創作のイメージを膨らませるためにメモを活用していたようです。
そして、四人目の受賞者であり、現在も横浜薬科大学の学長として活躍している江崎玲於奈氏(物理学賞)も、日頃から気になることを手帳に書き留めては思索を深めています。その彼の言葉はとても印象的でした。
「創造力だけではブレイクスルーはできない。自分にとって何が重要かを意識して普段からノートをとり、分別力を鍛えるということが大切なのです」
これは、ノートを活用するための意味を教えてくれた言葉でした。
東大合格生のノートを取材しているときから「ノートは、書いた人の人となりを表すもの」と感じてきました。しかし、これらの天才たちのノートを見ることで、その思いはより強くなりました。彼らのノートには、言葉を必要としないくらい訴えかけてくる力があり、そして独特な美しさを持っていました。ノートは奥深い。そんな思いになっていました。
東大合格生のノートはどうして美しいのか?
発売日:2015年02月27日
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