朱に交われば赤くなる――。人は、交際する相手によっていかようにでも影響を受けるものよ。そんな意味でしょうか。
では、本書のタイトルのように「酒(しゅ)にまじわれば」、どうなるか。
ああ、やっぱり赤くなりますね。そりゃそうなんですが、酒の場合、赤くなった後がおもしろい。
交わった(一緒に飲んだ)人の影響を色濃く受けることもあれば、影響絶無にして酔いの道を一人突っ走ることもあり、しかもその日の体調、酒量、懐具合も含めたもろもろの事情によって酒からの影響は千差万別になる。その多彩な酔いのあり様が、この本にぎっしり詰まっています。
著者のなぎら健壱さんは、酒豪です。筆者らが仲間うちでつくった『酒とつまみ』というミニコミ誌の酔っ払いインタビューをお受けいただいたとき、確信しました。
なにせ、六時間半飲んでも見た目には酔っていないのです。この世には本当に酒の強え人がいるなとアタクシなんぞは途中からちびりそうになり、終わった後に本当にちびったもんです。
で、その酒豪たるなぎらさんが、本書のページをめくるたび、たいそう酔っていたりします。筆者などは、まさに驚きを新たにする感じです。
たとえばこんな話がある。
タクシーに乗ったのはおろか、何杯飲んだのかも思い出せず、いやいやそもそも金を払ったのかどうかだって怪しい状態で目が覚めた明け方。見事なまでに記憶をすっ飛ばしていたなぎらさんが目覚めた場所は、なんと路上です。
無事に帰還できるのか。それともここで果てるのか……。それを書いた著作が出ているのだから無事だったに決まっているのですが、似たような経験のある筆者などは、思わず手に汗を握ってしまうわけです。
それくらいの酔っ払い体験ならオレにもたくさんあるよ。そんなふうに仰る向きもおありでしょうね。
でも、仮に今、筆者(コイツかなりの酔っ払い)が、我が生涯最悪の酒失敗談カードを切ったとしても、あえなく惨敗してしまうのが本書の世界でしょう。その違いたるや、初めてのキャッチボールとワールドシリーズほど。だから、おもしろい。
そんな絶品エピソード満載のこの一冊について、内容の多くを語ることは差し控えますが、ああ! それでもやはり、喋ってしまいたくなるから、あともう一話、せめてタイトルだけでも書かせてください。
「酒マラソン」
ため息が出ますね。どんなお話なのか……。そりゃあもう、壮絶。そして、爆笑ものでございます。