2015.09.11 書評

私の「優しいライオン」――やなせたかし先生に捧げる作品

文: 小手鞠 るい

『テルアビブの犬』 (小手鞠るい 著)

『テルアビブの犬』 (小手鞠るい 著)

 中学時代から、やなせたかし先生の詩を愛読してきた。先生が30年間、編集長をつとめていた雑誌「詩とメルヘン」の熱心な投稿者になった私は、20代の初めに、その雑誌の年間賞をいただき、1982年に、詩集『愛する人にうたいたい』(サンリオ刊)を上梓した。この詩集が、私の正真正銘のデビュー作である。賞も詩集も、やなせ先生からいただいた「人生の贈り物」だと思っている。

 書くことの喜びと苦しみ、フィクションとは何なのか、言葉はどこから、どのようにして生まれてくるのか。創作にかかわるすべての事柄を、やなせ先生の詩、先生のお人柄、そして、詩人である先生の存在、生き方そのものを通して、私は教わってきたように思う。小説を書くことを、いかにして職業にしていくのか、というようなことまで、先生は私に知恵を授けて下さった。「今のままじゃ、だめだよ」と、厳しく谷に突き落とされたこともあるし、「作家は人生で作品を書くんだよ」と、優しく諭されたこともある。

 1993年、「海燕」新人文学賞をいただいたとき、やなせ先生は、アンパンマンの新作映画の試写会への出席をキャンセルしてまで、授賞パーティの会場に駆けつけて下さった。新人賞を受賞したにもかかわらず、その後の仕事が暗礁に乗り上げてしまっていた私に、アンパンマンのぬいぐるみを贈って下さり、力強く励まして下さった。「好きなことなら、絶対にあきらめてはいけない」と、先生は常におっしゃっていた。やなせ先生は、45年という長きにわたって、私の「優しいライオン」でありつづけた。先生を師と仰ぐ気持ちは今も、これからも変わらない。

 そんな先生に「いつか、きっと、必ず書きます」と、約束していた作品がある。

 1992年、フリーライターだった私が雑誌の取材を兼ねて、アメリカ移住の報告をするために、先生のスタジオにお邪魔したときのことだった。

「アメリカへ行ったら、仕事はどうするの?」

 私の前途を心配して下さる先生に、私は言った。

「小説を書こうと思っています」

「へえ、どんな?」

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テルアビブの犬
小手鞠るい・著

定価:本体1,400円+税 発売日:2015年09月09日

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