- 2015.03.31
- 書評
十年間、大切に保管された
心臓病の犬と家族の「幸福な物語」
文:ヒロコ・ムトー
『天使になったシュクちゃん 世界一愛された犬の七年半』 (ヒロコ・ムトー 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
十年前、私は最愛の猫“五右衛門”を亡くした。同時期に最愛の犬“シュクちゃん”を亡くした友人のミナコさんと会って、コーヒーを飲みながら何時間も語りあった。気がつけばいい歳のおばさん二人がぽろぽろぽろぽろ涙を流しながら、それが可笑しいと笑いながら、
「こればっかりは同じ思いをした人でないと分からないよね? あの子たちはただの猫や犬じゃない、家族以上なんだもの」
と慰めあった。
チンチラシルバーの美猫・五右衛門を私は心から愛していた。五右衛門を喪った時、「うっかり背中を触ったら、川にでも飛び込むんじゃないかと思った」と周囲に心配されるくらい悲しみで一杯だった。「俺が死んでも、これだけ泣かないだろうな」と夫がため息をつくくらい、毎日泣いてばかりいた。その時の私は、多分ペットロス症候群と言われる状態だったのかもしれない。
だが、愛犬を亡くした悲しみは私と同じであっても、ミナコさんの口から語られる言葉は違った。思い切り愛したからこそ後悔なく明日に向かえる、悲しみの中から勇気が湧いてくる、そんな温かい言葉だった。
「こんなに泣けるほど愛された私たちの犬や猫は幸福よね?」
「私たちも、あの子たちからどれほどの幸福をもらったのかしら?」
そんな彼女の言葉は、悲しみに沈むだけの私の心をどれほど癒してくれたことだろう。
ミナコさんと別れたその日の夜、シュクちゃんとミナコさん一家の出会いから別れまでの七年半が、まるで一本の映画を観たように頭の中に甦ってきた。ミナコさんに出会わなかったら、売れない犬として処分されていたかもしれないシュクちゃんの運命。全身でシュクちゃんを愛した彼女の言葉や愛情の数々が心の中に流れ込み、
「書かなきゃ! 忘れないうちにあの言葉を書かなきゃ!」
と、一気に一晩で書き上げた。
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