──それから退社されて、カリフォルニア大学バークレー校の大学院、東京外語大の大学院へ進まれた。この転身はどのような理由からだったのでしょうか?
興梠 ビジネスを通して中国を知るにつれ、もっと深く知りたいという強い衝動にかられました。疑問がどんどん湧いてきたけど、ビジネスでは解決できない。歴史や思想などあらゆる書物を読みあさりました。その頃、太極拳に凝っていたことも影響したようです。毛沢東には関心がなかったのに、彼の戦法を読むと孫子の兵法や太極拳にそっくりだと気づいた。「虚実」「順逆」「内外」「彼己(ひこ)」という対立する概念が「二者合一」をなして相互に連動しながら一つの動きになる。これはまさに太極図と同じ。何としても中国を本質から究めたいと思いました。英語も磨きたかったし、ちょうどカリフォルニアに著名な太極拳の先生もいた。そこで、中国研究で有名なバークレーに行くことにしました。すでに東京外語大大学院に受かっていたので、休学して留学し、帰国後に復学しました。
──ついで外務省専門調査員を香港でお務めになる。これはどのような仕事を担当されたのですか。思い出に残る出来事などありますでしょうか。
興梠 あの経験は本当に大きかったですね。外交現場で自分の研究が試された。机上の空論は通用しない。流動的な現実をとらえ、事実にもとづいて議論しなければならない。短時間でレポートを書き、数分で報告する。現場ではスピード感が求められました。また、香港は中国情報の宝庫であり、自然と裏話が耳に入ってくる。中国を裏側から見ることもできました。まさに「表の中に裏があり、裏の中に表がある」という太極的世界です。そして、香港返還を目の当たりにしたことで、中国の民主化や地方自治など未来的テーマを考えるきっかけにもなった。中国を北京からではなく周辺から見る重要性にも気づきました。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。