──先生のご著書はいつも事実のディテールが豊富です。中国について研究することの面白さ、難しさはどのような点にあるでしょうか。
興梠 中国研究の面白さは、表裏(虚実)の両面をとらえ、真実を探り出すことにあります。表から見えない裏をあぶり出し、実像を描きだす。たとえば『人民日報』や新華社の公式報道は、「虚」の中に「実」が含まれていたりする。裏を知れば知るほど表のメディアが重要に見えてくる。私はこれを「公式の中に非公式を見る」と言っています。中国を通してネット社会、資源、民族、グローバリズムといった地球規模のテーマを考えるのも楽しいですね。いわば、「滴水観滄海」。難しいのは情報収集です。ひたすら「無用之用」の精神で、他人がゴミと思う情報をリサイクルします。
──今回のご著書を拝見すると、インターネットを経由してかなり情報を収集していらっしゃいます。ネットの登場は、中国という国のあり方、および中国研究の方法をかなり大きく変えたのではないかと想像しますが、いかがでしょう。
興梠 いまやネットなしには、中国の現実はわかりません。とりわけ、新聞やテレビといった伝統的なメディアが統制された中国では、本音を知ることが難しい。その点、ネットは本音丸出しで、中国各地の民衆の声がわかる。ネットユーザーは暗号を使い、共産党をGD、政府をZFと呼んで批判する。当局が削除してもすぐに書き込まれる。経済成長による情報革命で、民衆の権利意識は空前の高まりを見せています。統制された公式メディア(虚)を民衆の本音(実)と読み違えると中国を見誤る。中国研究は大変な時代に入りました。隠れた民意も見ないといけない。
──今回のご著書でもっとも力を入れられた点は?
興梠 表からは見えない「底流」を見せることです。中国共産党は、政治面では一党独裁で「共産主義」を維持し、経済面だけで「資本主義」をやりたい。でも、資本主義は、民衆の権利意識を呼び覚まし、民主化の土壌を生み出している。これから独裁と民主のせめぎ合いが最大の見どころになります。そうした水面下の攻防を描いてみたかったのです。
──これから日中関係で注目すべきはどのような点でしょうか?
興梠 最大の貿易パートナーとなった中国とどう付き合うか、につきます。日中は経済一体化が進んでいるけど、お互いを理解していない。日本人は中国となると肩に力が入りがちです。感情にまかせて反発するだけでなく、相手の表も裏も知りつくし、冷静に判断することが大事だと思います。また、信頼関係を築くには、中国の民主化が不可欠です。情報統制で民意が歪(ゆが)められていては、相互イメージは改善されない。仮面をとっぱらい、素顔で語り合える日がいつ来るのか。私はそこに注目しています。
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