文士という言葉は、ほとんど死語になってしまった。
よくも悪くも、今その呼び名に値する孤高の作家は、もはや勝目梓さんだけではあるまいか。
わたしが作家デビューした三十数年前、つまり一九八〇年代初頭のことだが、勝目さんはすでに飛ぶ鳥も落とす、流行作家の一人だった。今と違って、出版社はわが世の春を謳歌していたが、その屋台を支えたのは勝目さんをはじめ、現在も健筆を振るう森村誠一さん、西村京太郎さん、赤川次郎さんや、西村寿行さん(故人)といった、量産のきく流行作家の活躍だった。
量産、流行というと、あまりありがたくない表現かもしれないが、わたしはむしろほめ言葉だ、と思っている。なぜなら、作品の質が低下すれば当然読者は離れ、読者が減れば本の売れ行きは落ちるから、量産など望むべくもない。毎回、読者の期待を裏切らないからこそ、流行作家でいられるのである。これはもう、プロの作家に与えられる最大級のほめ言葉、といってもよい。勝目さんは、まさにその数少ない流行作家の一群に身を置く、プロ中のプロだったのだ。
勝目さんや西村寿行さんが開拓した、〈バイオレンス・ロマン〉〈ハード・ロマン〉と呼ばれるジャンルは、今や多様化したエンタテインメント小説の中に、浸透拡散してしまった感がある。それは、時代の変化のしからしむるところで、しかたがないだろう。とはいえ、大ベテランの域に達した勝目さんには、そんな変化をものともせぬ不屈の精神と、おそらくは強い自負があるはずだ。
川上宗薫さん、富島健夫さん、宇能鴻一郎さんら、かつての官能小説の書き手は、ほとんど例外なく純文学から出て、独特のジャンルを開拓した人たちだった。習作時代、純文学を目指していた勝目さんも、そうした作家の一人といってよい。ただ、勝目さんは従来の官能中心の小説世界に、荒あらしいバイオレンスとアクションを持ち込み、独自の道を切り開いた。