インタビューほか

“巣立ち”の象徴を書きたかった

「本の話」編集部

『ぼくらは海へ』 (那須正幹 著)

──物語後半で起きる仲間の死、そしてあまりに鮮烈なラスト。発表当時、この作品に対する評価はどんなものでしたか。

那須  否定的意見ばかりでした。児童文学の評論誌でも批判されました。一番言われたのは、やはりラストシーンですね。「救いがない」「子どもの明日を見つめるべき児童文学で、この終わり方はないだろう」とね。

  でも僕としては、そういう批判は実に意外であり、心外でした。深刻な気持ちで書いてはいないし、救いのない話を書いたつもりも全然なかった。あのラストは“巣立ち”の象徴なのであって、いろいろな解釈ができるはずだ、と。

  ただ、今、インターネットに『ぼくらは海へ』にトラウマを植え付けられた、なんていう思い出が書いてあるのを見ると、そうかトラウマになっちゃったか、そりゃ悪いことしたな……と思います(笑)。

──文庫に解説を寄せてくださったあさのあつこさんは、こう問うています。「那須正幹に野心はあったのだろうか。/この一冊で、日本の児童文学を引っくり返してやる、という野心は」。いかがですか。

那須  いやいや、とんでもない……。そんな大それた気はまったくありませんでした。

──児童文学研究者の宮川健郎氏は「『ぼくらは海へ』が八〇年代児童文学のとびらをあけたのだ」(『ズッコケ三人組の大研究』ポプラ社)と最大級の評価をしています。

那須  僕の作品は、しばしばあとになって褒められるんです(笑)。『屋根裏の遠い旅』(一九七五年)もそう。少年二人が、日本が太平洋戦争に勝った世界に迷い込む、という話ですが、これも見当違いの批判ばかりされた。単なるタイムスリップものと思われて「この時代にテレビがあるのはおかしい」とか。当時の児童文学界には「パラレルワールド」という概念がなかったんですね。でもこの作品も、のちにとても褒めてもらえた。なぜでしょうね。書いた時代が早すぎたのかな?

──今、那須さんにとって『ぼくらは海へ』はどういう作品ですか。

那須  愛着のある作品です。最初に構想が芽生えてから本にするまで十年近くかけたし、船の構造を調べたり、模型にしてみたりと、エネルギーも費やしました。今読み返すと文章は気負っているし、若気の至りだと思う部分もあるけど、これが文庫になったのは非常に嬉しいことです。

──これまで「ズッコケ」の那須さんしか知らず、今回『ぼくらは海へ』を読んでびっくりした、という大人の読者に、“次の一冊”を薦めていただけますか。

那須  まずは『屋根裏の遠い旅』。短篇集の『ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』。それから、『さぎ師たちの空』。これは我ながら快作ですよ。

ぼくらは海へ
那須 正幹・著

定価:620円(税込) 発売日:2010年06月10日

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