
どうしようもない。
『風に恋う』を読み終えた直後、私を浸している感情を一言で表せと言われたら、「どうしようもない」と、わたしは答える。それしか答えが見つからない。
今年の二月の半ば、わたしは文藝春秋の編集者から『風に恋う』の解説を依頼された。正直、断るつもりだった。このところ、めっきり筆の遅くなった(年のせいだろうか)あさのとしては、他人さまの作品について何かを語る余力はないと思われたからだ。時間的にも精神的にも。けれど、引き受けた。断るつもりだったのに引き受けた。
法外な原稿料に目が眩んだわけではない(そもそも、法外な原稿料など提示されなかった。きっちり規定通りでした)。編集者に泣きつかれたからでもない(編集の〇〇さん、終始、冷静沈着でした。見習わねば)。額賀澪という作家名に惹かれたからだ。さらに言えば、額賀澪のデビュー作『屋上のウインドノーツ』を読んだ時の心に刺さってきた感覚がよみがえってきたからだ。
人と人との関係が本物だった。志音も大志も瑠璃も血肉のある、心を持つ人間として読み手に迫ってくる。そこにドラムが響き、風が吹き抜ける実感が加わる。安易な青春物語にも安っぽい恋物語にも堕ちない強靭さを持った作品だった。
こちらもおすすめ
イベント
ページの先頭へ戻る