日本国憲法は、1947(昭和22)年5月3日に施行されてから、すでに66年を経過した。その間、1度も改正されていない。安倍晋三首相は、今回の選挙結果を踏まえて、憲法改正に向けて歩を進めようとしている。いまや憲法改正は「リアリティ」の世界に入りつつある。
主権を有する国民として、憲法問題と真摯に向き合わなければならない。しかしながら、書店に陳列されている憲法の本を眺めると、ただ情緒的に憲法を変えれば、戦争ができる国になり、徴兵制がしかれるようになるとか、日本国憲法は民主憲法であり、それを変えれば民主主義に逆行するという類(たぐい)の教条的な護憲本が多い。時代は、情緒的、教条的護憲論を求めていない。日本国憲法を原点から見つめ直し、21世紀の憲法潮流のなかで、そのあるべき具体像を描いてみたい。これが本書を執筆した大きな動機である。
私が大学に入学したのは、60年安保の年である。構内は「安保反対」のデモの列が渦巻き、日米安保条約の改定はわが国を戦争に導き、平和憲法に反するという空気がみなぎっていた。私が憲法と向き合った最初の機会である。
大学院に進み、研究者の道に入ってから、半世紀になろうとしている。その間、学界の主流になじめなかった。なぜか。自分たちの世界でしか通じない「ごっこ」的解釈が通説とされ、憲法と社会が乖離(かいり)しても社会が憲法に合わせるべきだという憲法至上主義が支配的であることと無関係ではない。自衛隊は憲法違反だという声は聞かれても、国際社会の現実を直視し、憲法を改正して軍の保持を明記せよという声は聞かれない。
私は、憲法解釈に加えて、比較憲法と日本国憲法の成立過程の検証にも多くの時間を割いてきた。比較憲法にはさまざまな方法論があるが、できる限り、世界の全憲法(現在、世界で成典化憲法は188)を対象にするようにしている。資料収集は、かなり大変である。また全資料をどのように分析するかも課題である。しかし、そこから見えてくるものは多い。
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