世界最古の憲法?
たとえば、「日本国憲法は世界で唯一の平和憲法」という言説が「神話」にすぎないことは、188カ国の憲法中158カ国の憲法(84%)に平和主義条項が設けられていることから、一見して理解できよう。日本国憲法は「新憲法」と呼称されることがあるが、いまや古い方から14番目であること、しかも日本国憲法よりも古くに制定された国の憲法はかなり頻繁に改正されており、日本国憲法は「世界最古の憲法」というべき存在になっていることを本書で具体的に表示した。さらに近年の世界の憲法トレンドを探るために、1990年代から昨年末までの100カ国の新憲法を対象に調査したところ、環境条項と政党条項はいずれも90カ国の憲法に導入されているとの結果を得た。同調査を通じて強調されるべきは、100カ国中98カ国の憲法に平和主義条項が設けられていると同時に、100カ国すべてに国家非常事態対処条項が設定されていることである。世界の憲法は、平和を唱える一方で、万一、平和が侵されたときにいかに対処すべきかは憲法で定めるべき事項と考えられているのである。わが国で国家非常事態対処条項を憲法に導入することは立憲主義に反するという見方があるが、このような見方をすれば、世界に立憲主義国家が存在しないことになる。
わが国で論じられている憲法論は、いかにも近視眼的である。本書が、これから高まっていくであろう憲法論議を広い視野から見ていく座標軸になることを願いたい。
もう1つ、私が力を注いできた分野は、日本国憲法の成立過程を検証することである。私は、1984年から翌年にかけて連合国総司令部(GHQ)で日本国憲法の原案を作成した8人をはじめ、当時存命していた国内外の40数名にインタビューを試みた。また、日本国憲法の成立に重要な影響を与えたにもかかわらず、抜け落ちていた極東委員会の議事録を精読・分析した。その結果、第9条の解釈にあたっては、極東委員会からの強い要求で導入された文民条項(「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」)との関係に言及することが不可欠であるとの知見を得た。第2章「日本国憲法誕生の内幕」で、そのエッセンスを記述した。
最後に、第7章において、【改正要綱】として具体的な改正案を提示した。本書の40%近くを占める。「前文」を全面的に書き改め、「序章」を新設するなど、あえて独自性を打ち出した。【現状の問題認識】【解説】などにより、改正案の理解促進に努めたつもりである。改憲の側に立つとすれば、ただ抽象的に現行憲法の問題点をあげつらうだけでは、解答になり得ない。ここに提起した【改正要綱】について、いろいろなご意見があるのは当然である。ご一読いただき、ご批判を賜れば、幸いである。
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