- 2013.04.12
- 書評
世界中のセレブを魅了する最高峰、
アマンリゾーツ誕生の秘密
文:山口 由美 (作家)
『アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』 (山口由美 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
アマンのルーツは日本だった
そして、もうひとつ、アマンプリの原風景ともいえる場所が、実は日本にあった事実に遭遇する。1950年代後半、ジャーナリストとして日本に赴任したゼッカは、週末ごとに外国人たちの集った海沿いの別荘に出かけた。海を見下ろす別荘のロケーションと青春の日の甘い思い出が、後のアマンプリにつながったというのである。
さらに、ジャーナリストだったエイドリアンがホテルビジネスに目覚めるきっかけとなったのが、経営陣の1人として躍進を支えた伝説のホテルチェーン、リージェントである。
近代以降、王侯貴族の社交場だった宮殿や城の代替として、グランドホテルと総称されるホテルが登場した時から、ホテルは、人間の最も根源的な欲望と直結してきた。だが、長くそうした記号的意味を持つのは、歴史と伝統のあるホテルだと考えられてきた。リージェントのフラッグシップとして、1980年に開業した香港のザ・リージェントは、欧米を中心としたこれらのホテルの常識に革命を起こしたアジアの新風だった。日本とも深いつながりのあったリージェントは、もうひとつの重要な伏線だった。
本書は、たとえばアマンのルーツは日本旅館にあるといった、いくつかの噂の真相に迫ると同時に、アジアの戦後史の中にアマンとエイドリアン・ゼッカを中心としたアジアンリゾートなるものの誕生と変遷を位置づけたノンフィクションである。
エイドリアン・ゼッカとその時代を辿る取材は、足かけ5年におよぶ長きにわたった。その間、何度となく、鳥肌の立つような出会いと発見があった。そして、私は勃興するアジア経済の激動を背景にいくつものドラマがあったことを知ったのである。