──雑誌の連載でなく書き下ろしにされたのは、裁判員制度が始まる前に出版されたいという理由からでしょうか。
夏樹 それもあります。制度も未決定部分があったので、問題なく書き下ろしにしました。ただ最初のうちは専門家に取材しても「さあ、どうなりますかね」と答えが返ってくるような状態だったんですが、そんな折に、たまたま最高裁の諮問委員に任命されました。正式にいうと、「最高裁判所下級裁判所裁判官指名諮問委員会」という、長ったらしい委員会です。
ここでは、最高裁以外の裁判所の裁判官たちが十年毎に適任かどうか審査される内容について、意見を出します。何らかの問題があって再任されない方が四~五パーセントいらっしゃいます。その方たち以外は、また十年、裁判官を続け、何の拘束もなく自由に判決を出せる。昔はその審査を最高裁判所の密室だけでやっていたんですが、司法改革の一つとして、民間の声も聞こうということになり、私が諮問委員の一人に選ばれたわけです。
最高裁のほうは私が小説を書こうとしているのを、もちろんご存知ありません。でも私は、委員の仕事をお受けして、いろいろと裁判員制度について聞く機会に恵まれたわけです。PRの方法や予算、地方裁判所での模擬裁判のやり方なども、主に最高裁判所が決めていたようです。そういう関係者とも知り合いになれたことは、この小説にとって幸運でした。
──司法関係者の方の生の声というのは、我々はなかなか聞くことができません。例えば、どのような人が裁判員になるのかなど、不安に思ったりはしてないのでしょうか。
夏樹 口には出されませんが、本心ではあるかもしれません(笑)。無作為抽出ですからね。裁判員の候補者は定員の十倍くらい呼ぶようです。集ったところで初めてどういう事件をやってもらうか知らせます。その人たちに事件の関係者、親戚や友人はいないかを聞き、いればそこではずされます。そのあと一人か数人一組で面接します。そこで検察側と弁護側、それぞれ四人ずつは理由をつけずに忌避できます。裁判所も、不公平な裁判をするおそれがあるなど、理由のある人を不選任にすることができます。そのあとは本当にコンピュータで無作為なんです。男女のバランスとか、年齢構成とか、人為的な考慮はされないんですよ。
──小説では裁判員の構成は絶妙なバランスだと思いました。
夏樹 有難うございます(笑)。実際にはバランスよくなるのも、ならないのも同じ確率なんです。小説では市民の代表としていろんな人の意見を出すためですね。
──裁判長を含め裁判官三人、裁判員六人……皆平等な一票なのですね。
夏樹 そうです。判決はまったく平等な多数決です。
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