書評

「純粋な見方」では見えないもの

文: 中野 京子 (作家・ドイツ文学)

『恐怖と愛の映画102』 (中野京子 著)

映画を何倍も楽しむには

   現代の若者は、自分たちが何かにつけて利用されていると感じています(案外それは正しいかも)。だから製作会社の意を汲んだ映画評には敏感だし、少なからぬ評論家たちが面白くもないものを面白いと誉め、二流品に傑作のお墨付きを与えることにもすでに気づいています。そんな提灯記事を読んで騙されるくらいなら、自分と等身大の素人のコメントの方が役に立つと思っているのです。

   でもそれではいつまでたっても同じ視点のままだし、わかることだけわかってお終いの鑑賞法から抜けられない。もっと広い視野と知識があれば、何倍も映画は楽しめるのに惜しいことではありませんか。

  そこで拙著『恐怖と愛の映画102』が、斬新な映画批評を引っさげて登場する次第……と見得を切れたらいいのだけれど、全然まったく少しもそんなことはないのでした。ごめんなさい(それに関してはプロの映画評論家の今後に期待しております)。

   ではこの本は何だ、といいますと、映画大好き人間による映画を素材にしたエッセイということになるのかな。
   もとは月刊誌『母の友』(福音館書店)で連載の(現在も継続中)〈ははとも倶楽部VIDEO〉という短いコラムのうち、二〇〇〇年度から二〇〇八年度の九年分を一冊にまとめたものです。『母の友』はタイトルどおり、基本的には小さな子どもを持つ母親が対象ですが、男性の購読者も多い、なかなか硬派の雑誌です(すばらしい写真コーナーがあり、政治や医学記事も充実)。

   それなので毎月のわたしのビデオ・DVD欄も、何の制限もなく自由に楽しく書かせてもらっています。四月新年度は必ずSFから始め、毎年ひとつテーマを決め、それに沿って作品を選びました。たとえば――、

〈母〉には『異人たちとの夏』や『ゴッドファーザー』、〈恋〉には『めまい』や『ナビィの恋』、〈電話〉には『マトリックス』や『天国と地獄』、〈別れ〉には『危険な情事』や『ことの終わり』etc.

恐怖と愛の映画102
中野 京子・著

定価:650円(税込) 発売日:2009年07月10日

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