週刊文春の好評連載「お伊勢丹より愛をこめて」が『買い物とわたし ~お伊勢丹より愛をこめて~』としていきなり文庫化! 蚤の市からハイブランドまで、山内さんこだわりの買い物が詰まった一冊より、連載第1回、「伊勢丹新宿店」でのお買い物の様子を公開します!
あれはたしか、25歳をちょっと過ぎたころ。久しぶりに会った高校の同級生の財布がルイ・ヴィトンの長財布に変わっていて、「おやっ!?」と思ったことがあった。まだまだ学生気分を引きずっていたわたしには、ヴィトンの財布というとどこか遠い世界のアイテムという感じがして、「友よ、君はもうそんな大人に……」とせつなく思ったものだ。
そのときわたしが使っていたのは、大学時代に地元富山のセレクトショップで買った、イル ビゾンテの二つ折り財布。イル ビゾンテはイタリアの革メーカーで、値段はたしか2万6000円くらいだった。会社で働きはじめた友達と、就職せずにのらりくらりと生きていたわたしの人生の違いが、財布の形になって表れている気がした。
ブランドものには興味がないわ~、とうそぶいていたものの、ヴィトンの財布はたしかにちょっとうらやましかった。けれどわたしは、手垢にまみれてクタクタになじんだイル ビゾンテの茶色い革財布が、自分にすごくしっくりきていると思っていたので、買い替えようとまでは思わなかった(あとお金もなかった)。わたしが真に「ブランド財布が欲しい!」と目を血走らせるのは、そこからさらに7年後、32歳になったときである。
2012年に単行本デビューして、長かった文学的ニート時代に別れを告げたとき、わたしはまだ例の財布を使っていた。そしてどうにか一介の「作家」となった自分は、急にその財布を恥じるようになった。イル ビゾンテはいいブランドだけど、2年で買い替えるのが風水的に(?)いいとされる財布を10年以上使ったら、さすがになんか邪気がすごくて……。
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なんでもない少しだけ異質な日常に潜むもの
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みんなと私の「おいしい!!」のため
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美味しいワインに理屈は不要です
2008.12.20書評
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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