2014.10.16 書評

なんでもない
少しだけ異質な日常に潜むもの

文: 瀧井 朝世 (ライター)

『異国のおじさんを伴う』 (森絵都 著)

 森絵都さんが『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞したのは二〇〇六年。その直後から『オール讀物』で短篇小説の連載が始まった。それはご本人が「十年は続けたい」と提案した新たな試みで、理由は「それくらい続ければ短篇がうまくなるかと思って」と言うから驚く。だって彼女の直木賞受賞作は、まさにその短篇を収めた作品集なのだ。実力はもう充分認められているというのに、妥協しない姿勢に恐れ入る。

 掲載された作品は数篇ずつ書籍化されている。第一弾の『架空の球を追う』は十一篇を収録、すでに文庫になっている。十篇収録した第二弾が本作で、単行本は二〇一一年十月に刊行され、このたびこうして文庫化された。第三弾『漁師の愛人』も現在単行本で入手可能である。短篇と呼ぶには長い、中篇が二作入っているために収録数は少なめの五篇。

「うまくなるために」執筆しているといっても、どの短篇も習作レベルではなく、非常に完成度が高いことは本書を読めばすぐ分かるだろう。読者の心を掴む最初の一行から、きっちり着地点を見せてくれる最後の一行まで、設定のユニークさ、刹那の切り取りの鮮やかさ、ひねりを効かせた展開の妙など、短い枚数だからこそ堪能できる技がどれも光っている。どの話にもユーモアが漂うが、コミカルな話と思わせておいて終盤に深く心をゆさぶってくる場合もあるのだから油断ならない。また、前半に見えていた光景やイメージを反転させてしまう、まるでミステリ小説のどんでん返しのような仕掛けの巧みさには舌を巻く。いずれにせよ、読者を心地よく翻弄してくれる短篇が並んでいる。

 では、それぞれの作品を見ていこう。

【次ページ】

異国のおじさんを伴う
森絵都・著

定価:本体470円+税 発売日:2014年10月10日

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