- 2011.12.16
- 書評
大反響の作文集から生まれた
涙と希望のドラマ
文:藤吉 雅春 (ジャーナリスト)
『「つなみ」の子どもたち 作文に書かれなかった物語』 (森健 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
私が陸前高田の記事を書きたいと思ったのは、震災で壊滅状態になる1カ月ほど前のことだった。
「こんなに面白いのに、なぜ報道されないんでしょうね」
夜、漁港に近いスナックを出て、雪の上をとぼとぼと歩きながら私が聞くと、地元の人が「頑張ってくれよ」と背中を叩く。彼らは報道にもどかしさを感じていた。
2月6日、陸前高田では市長選挙が行われた。1月末には、あの小沢一郎氏も応援演説に来ている。ここは小沢氏の中選挙区時代の地元なのだが、信じられない事態が起きていた。前日から土建業者が動員の電話をかけまくったのに、ある立会い演説にはたった11人しか集まらなかったのだ。
「マスコミはいつも『小沢王国』と書くけれど、一体、いつの話をしてんだ」と、地元は熱気にれていた。
ふだん政治に無縁と思われた女性たちが、当選することになる戸羽太氏を支援しようと、ボランティアでビラ配りをする。かたや、プレハブの選挙事務所では民主党系の市議たちがストーブを囲んで延々と茶飲み話を続ける。
「市民対バッジの闘いだった」と振り返ったのは、落選した民主党側だった。バッジとは、市議や県議のことだ。
しかし地元の人は、「盛岡のマスコミは、自民と共産が相乗りしたのが勝因と括りたがる」と、面白くない様子である。王国は崩壊したのに、実状を知らない古いパターン化された報道ばかりが繰り返される、というのだ。
その町が、すぐに悲劇の舞台として報じられた。壊滅的な被災地として。
森健著『「つなみ」の子どもたち 作文に書かれなかった物語』を読み始めた時、すぐに心臓の鼓動が早まっていることに気づく。これは被災地報道というレベルを超えた記録である。
すでに森健氏は、被災した子どもたちが書いた作文集『つなみ』を編纂している。『つなみ』は国内外で大きな反響を呼び、小中学校の授業でも取り上げられている。その作文を足がかりに、彼は作文を書いた子ども、その親、家族を追い続け、原稿用紙の向こう側に息づく「物語」に踏みいるのだ。
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