書評

大説ではなく小説を

文: 吉村 作治 (早稲田大学名誉教授)

『教授のお仕事』 (吉村作治 著)

 次に、この小説はキャンパス情報小説という、新しいジャンル開発のために書いたことを申し上げたい。大学教授や大学キャンパス、学生のことを書いた小説は少ないながらも存在しているが、それは専任教員となり、大学運営に関わったとは思えないほど、表面的な表現しかしていない。私なりに教員や教育法、大学運営を含めた大学教育の真実を、世人に知っていただきたかったのである。「良い」とか「悪い」という観点ではなく、私が経験した事実の本質を、大説的手法で探り、それを小説風に表現したのである。少し大げさな言い方で恐縮ですが、本小説で書かれている事象はおおむね私自身が体験したことであるが、登場人物名、地名などは、私が作り出したものである。私がこの小説を「本の話」に連載しはじめた当初、何か早稲田大学の内情を暴露するのではないかと、思った方もいたらしいが、私は1私立大学の典型としての都(みやこ)大学を設定しただけで、特定の大学を舞台にしていない。また子供の頃、自宅の真向かいに住まわれていた大学の教授の生活ぶりを見ていて、「何と暇なんだろう、大学教授は」という想い出から、大学教授って、何をする仕事かを世に知っていただきたく、少々おちょくった言い方で、「お仕事」の「お」をつけさせていただいた。大学教授の評価がぐんと下がった今でも、何か権威づけようとする際、テレビコメンテイター等、大学教授の肩書きで、人々に信頼感を強要している風潮に、冷や水をかけたい、すなわち大学教授って専門以外のことは世間並み、いやそれ以下なんだということをエピソードの中で、おわかりいただきたかったのだ。私がクイズ番組で、正解できないでも平気でいられるのは、専門以外は視聴者と同じ、もしくはそれ以下であることを知っていただき、誤った教授観の是正に努めたわけだ。それが功を奏しすぎ、正解率が上がったら、出演依頼は激減し、「あの人は今」的存在になってしまった。

 小説の主人公の「中(あたり)」という姓は、実は今から50年前、未だ沖縄が米国の支配下にあった時いった際、出会った沖縄独立運動をしていた、青年の名が中(あたり)さんだったことから使った姓である。確か出生地は奄美大島で、そこでは上(うえ)さん、中さん、下(しも)さんと住む場所で姓が違うというのような話だった。ところが、それから10年ほどして、同島出身で、上さんという方にエジプトのカイロで出会って裏がとれた、という想い出から使わしていただいた姓だ。

 本小説は4年にわたって、月に1回の連載だったが、書いているうちに大学の社会的立場の変化、学生の考え方、行動の仕方の変化、書き手の私の価値観や人生観の変化があり、今読み返してみて、自分ながら驚いている。ある意味、私の人生のマイルストーンとなっている本小説のジャンル、キャンパス情報小説を何らかの媒体で発表しつづけることが、大学教育を担っている自分に課せられていると思う。

教授のお仕事
吉村作治・著

定価:1680円(税込) 発売日:2012年02月18日

詳しい内容はこちら