2014.06.27 インタビューほか

『私の男』映画化記念 桜庭一樹 “居酒屋”インタビュー(3)

『私の男』 (桜庭一樹 著)

『私の男』映画化記念 桜庭一樹 “居酒屋”インタビュー(3)

全3回でお届けする「桜庭一樹“居酒屋”インタビュー」の第3回。
第1回はこちら、第2回はこちらです。

 

――『私の男』の映画では、過去から現在へと時系列が元どおりになっていますが、ご覧になっていかがでしたか?

桜庭 試写を観たライターさんから、映画のラストで二人がどうなったかの解釈が人によってちがうのではないかと言われて、そうだなと気付きました。大人になった花と老いた淳悟の二人があのまま別れると思う人と、続くと思う人がいる。それでいうと、自分の小説で名前を変えて出てくるけれど根底で繋がっているような人物がいて、『赤×ピンク』のまゆは、作者にも彼女のその後がわからず、結婚しますといって途中でいなくなるんです。『赤×ピンク』の映画化の際に、この人このあとどうなったんだ? と製作側のほうで大変だったらしいんですが、自分としてそれはわからないことなんです。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』で、海野藻屑がお父さんに殺されるというところまでを書いて、『私の男』で、腐野花がお父さんと決別しようとするというところまでを書いて、次に『ファミリーポートレイト』で、鈴木駒子の密接に繋がっていたお母さんが死んでしまったらしいけど、その後を生きるというところまで書いて、まだ別の作品でその人について書いています。ちょっとずつ進んでいるけれどまだわからないと思っていて、小説もこの一作だけだと、どうなったかわからないのが、時系列が逆になっていることで一つの作品としておそらく完成したのだろうと思います。映画は映画で一本として完成するために、時系列を戻したあのようなかたちになったんじゃないかなと思いました。

――桜庭さんはよく原作に忠実な映画よりも、映画ならではの解釈であったり表現であったりするほうが、原作は原作の、映画は映画の、それぞれの面白さが出るように思うとおっしゃいますが、この『私の男』でいうとどのようなところですか?

桜庭 脚本を読んだときに、小町が調子に乗ったことを言ったあと、ト書きで「その小町の若くない手」とか、刑事の田岡が小町になんだかんだ言ってきたあと「あの人私のことを好きなんです」という、女の人の愚かだったり狡猾さだったりがうまく拾われていて、全体的に登場人物たちに距離をとっているので、ハリウッドの王道エンタメというよりは、ヨーロッパのアートっぽい映画に近いのかなと思いました。距離を縮めて観客に感情移入させるのではなく、全体を見せているのかなと思いました。小説では花を一人称にすることで、感情移入してはいけない人たちだけど読者が感情移入していってしまうという作りなんです。章ごとに一人称の語り手がかわると、読者のかわりにこの親子に距離をとる人を描いて、また主人公たちにいくと二人の関係が自然に思える。主人公に感情移入させることで成立させていた物語なんです。アプローチの仕方は映画と全然違うんですが、面白いなと思いました。

――淳悟が浅野さん、花が二階堂さんという配役を聞いて、またご覧になってみてどうでしたか?

桜庭 二人とも原作のイメージにぴったりなので、配役を聞いたときはなるほどと思いました。二階堂さんに関しては、中学生から大人になるまでを演じ分け、映像で説得力をもって変化をみせるのはすごいことですよね。浅野さんはラストの顔がすばらしくて。年老いたときの、色々失っていった人だというのが顔だけでわかるので、小説はいろいろ描写を必要としますが、映画は役者さんの姿で成り立ち、小説と映画の違いをあらためて感じました。

――じゃあ映画の中でも印象に残っているシーンというのは、お二人の表情でしょうか。

桜庭 そうですね。印象に残っているのは、二階堂さんのアップと、浅野さんの、年齢による変化、何が起こって何があったのか語られていないのにわかるというのはすごいと思ったのと、もうひとつあまり周囲の賛同を得られないシーンがあって……。

――それはどのシーンでしょう?

桜庭 刑事役のモロ師岡さんが浅野さんと対決して、クリームシチューをかぶるシーンが凄いと一生懸命言っているんですが……。原作で、淳悟のアパートに田岡が訪ねてくるシーンは味噌汁の具にする野菜を切っているので、クリームシチューじゃないんですよ。二階堂さんからも真夏ですしね、とつっこみが入ったのですが……。その前の、二階堂さんと浅野さんの絡みのシーンが血で赤いから、白いクリームシチューでいいんです。二階堂さんがそのシーンを観て、師岡さんから脳漿(のうしょう)が出ているようにみえると言ってました。それも師岡さんがクリームシチューをかぶってそんな感じになるというのは誰にもわからないし、ここで何をどうしようというのは理屈では絶対説明できないけれど正解であると、何か狂気を感じました。また師岡さんに対抗する浅野さんの武器というのが、クリームシチューの鍋というのも絶対に思いつかないし、なんでって聞かれても誰にもわからないけれど、あれはすごいんです !!

(二〇一四年四月二〇日 東急本店通りの某居酒屋にて)

『私の男』6月14日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
[出演]浅野忠信/二階堂ふみ/高良健吾/藤竜也 [監督]熊切和嘉 [配給]日活

私の男
桜庭一樹・著

定価:670円+税 発売日:2010年04月09日

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電子小説誌 つんどく Vol.3

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