2014.06.20 インタビューほか

桜庭一樹×二階堂ふみ
『私の男』との運命の出会い(後編)

「オール讀物」2014年6月号より転載

桜庭一樹×二階堂ふみ<br />『私の男』との運命の出会い(後編)

直木賞受賞作の問題作『私の男』がついに映画化。主演女優・二階堂ふみと原作者・桜庭一樹が語り合う対談・「『私の男』との運命の出会い」後編。《前編はこちら

桜庭一樹 さくらばかずき
1971年島根県生まれ。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞受賞。08年『私の男』で直木賞。『荒野』『傷痕』など。
二階堂ふみ にかいどうふみ
1994年沖縄県生まれ。2013年『ヒミズ』『悪の教典』における演技が評価され、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。

芸能人は歯が命?

 二階堂 浅野さんが、ずっと煙草を吸っている人みたいな歯にしたいと言って、歯を黒く塗っていたんです。メイクさんが塗ったのを見た後に、「もっと足してほしい」って。

桜庭 歯って大事ですよね! 役者さんの歯について誰かとずっと話したくて(笑)。おかしいですかね? 『息もできない』という韓国映画があるんですが、映画は面白いのだけれど、監督でもあるヤン・イクチュンが演じる青年は、すごく貧しい設定なのに、セラミックのちゃんとした……。

二階堂 歯がきれいなんですよね。

桜庭 そうなんです。「その歯で貧しいって……。じゃあ、その歯はどうした?」と思ってしまいます。最近の役者さんは皆、歯がきれいだけど、役によって違うと思うので気になっていたんです。今、二階堂さんのお話を聞いて、浅野さんってすごいと思いました。

二階堂 たまにあるんですよね。ギターを弾いている設定なのに、ものすごく爪が長いとか、爪がきれいとか。

桜庭 ああ!

二階堂 ギターを弾いている人の指先はすごく硬いし、爪も短いし、ささくれもあったりするのに。手がきれいだと、説得力がないと思ってしまいます。

桜庭 私は田舎の出身なので、歯列矯正をする子供はほぼいないと思っていたのですが、同い年で東京出身の男性が中学生の時に歯列矯正をしたと言っていたことをすごく覚えています。歯や手といった細部に、人間の生活や歴史が出ますよね。シナリオを最初に読んだ時にも、細部にこだわっていると思いました。淳悟の恋人の小町さんが、ちょっと調子に乗ったようなことを言うシーンがあって、「小町の若くない手」とシナリオに書いてあったのが印象的で(笑)。

二階堂 小町さんが花の産毛を触って、「化粧に興味を持つのはまだ早い」と言うシーンは、ぐっときたんですよね。産毛が生えているから子供って言う小町さんの勝ち誇る感じとか。

桜庭 確かに、それを実際に言ってしまうところが面白いですよね。

二階堂 監督も原作のファンだったから、「原作の世界観は壊したくない。美しい耽美的な物語であってほしい」という話を二人でしたんです。監督は、「花には被害者になってほしくない」とも言っていたので、花が主導権を握って台風みたいに動くことで、周りの大人が全員やられてしまうというように演じました。

桜庭 「虐待」を書く時に、単純に被害者と加害者に分けてしまうのは違うと思うんですよね。私は、ファミ通エンタテインメント大賞で佳作に引っかかってデビューしたのですが、私を推してくれた審査員の先生が、「かわいそうなはずの女の子が、自分をかわいそうだと全然思っていない。被害者とも思っていない。それが余計に怖い。こういう書き方をするのはとても大事なことだ」と褒めてくださったんです。それから何年経っても、そういう書き方をしているので、私の中に最初からあったものなのかな、と思っています。被害者だったはずの人に、加害者だったはずの人が支配されたり、振り回されたり、破滅させられたり、支配と被支配といった力関係が交替していくのが人間のドラマだと思うので、そこが映画の中にちゃんと残っていてくれたと思います。

二階堂 映画では、花が「超かわいくない?」と、雪の中で踊るシーンが突然入るんですけど、監督は「今、自分に起こっていること全てがかわいいと思ってしまう花」を表現したかったそうです。ちょっと不気味だけど、とても好きなシーンの一つです。映画の中の淳悟と花は、寄り添って生きて、寄り添って愛し合っている二人なんですね。血の繋がった者同士が愛し合うという行為は、最初に人類が生まれた時は許されていたのに、文明においてタブー化したのは人間だということが、面白いと思いました。

桜庭 聖書でもアダムとイブがいて、そこから子孫が広がったということは、「だいぶ君たち……」という感じですよね(笑)。

二階堂 二人が三人になって。

桜庭 「そこはスルーか」って(笑)。

二階堂 あまり大々的には言っていないのですけど、中学生の時に、ボーイズラブ(BL)ばかり読んでいたんです。取材で「『私の男』を中学生の頃に読んだというのは早熟じゃないですか?」とか、よく言われるんですけど、当時は男性と女性が恋愛することが当たり前だと必ずしも思っていなかったというか、男同士でもあるだろうという考え方をしていたから、『私の男』もすんなりと読めたのだと思うんですよね。色々な愛の形があって、色々な人がいて、色々な寂しさを持った人がいて、ということを何となく感じていたのかな。

桜庭 『私の男』の読者には、ゲイの方が意外に多いらしいです。私は元々、少女二人という設定で書いたものが多かったのですが、亡くなった評論家の中島梓さんに「少年で書いていたものを少女で書いているんじゃないか」と仰っていただいたことがあって、今度は少女二人を男女にしたら、どうなるかと思って書いたのが実は『私の男』なんです。なので、BL読者の方も恐らく読んでくれたのではないかと思います。

二階堂 へー、すごいですね。繋がりました。

私の男
桜庭一樹・著

定価:670円+税 発売日:2010年04月09日

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オール讀物 2014年6月号

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