- 2016.01.03
- 書評
巨石遺跡に秘められた太古の記憶とは!? 20年ぶりに復活した幻の傑作群
文:澤島 優子 (フリー編集・ライター)
『石の記憶』 (高橋克彦 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
先生はすでに、『炎立つ』などの歴史小説で、従来の「日本史」に正しく描かれることのなかった「東北史」を描き出そうとされていた。勝者によるご都合主義や、偏見や差別に満ちたストーリーではない、真実の物語を追求してきた作家である。そんな先生にとってこのシリーズは、原点であり、集大成であり、新たな出発点にもなったはずだ。さらに先生は、シリーズの構成として驚くべきアイディアを述べている。
時代とその人物を縦糸に、四七都道府県を横糸に、さらには小説ジャンルを限定せず、ファンタジーもあればホラーもあり、恋愛物、少年物、純文学風のものあり……というように、ジャンルで模様を描いていくような、まさに前代未聞の物語というのを考えているわけです。もちろん全体像もまだつかめないし、取材や資料集めも大変で難しいシリーズになるとは思いますが、物書きになったからには、そういう壮大な仕事をしてみたいと思います。何年にわたる仕事になるのか自分でもわかりませんが、読者の方にもぜひ長い目でおつきあいいただきたいと思いますね。(前出「特別インタビュー」)
土地の記憶を霊視する能力を持つ火明継比古と小説家の「私」が、日本各地を旅しながら、火明が霊視する世界を、「私」が小説という形で記録していくというスタイル。ジャンルを問わない四七の物語によって浮かび上がる「日本」という国。土地が記憶するものは、大きな自然災害や大規模な破壊、戦争、事件、悲劇がどうしても多くなるだろうが、そこで描かれるのは、これまで見たこともない日本人たちであり、勝者も敗者もない、平等で公平な日本史になるはずだ。そしてその「日本」は、私たちが知っている今のこの国よりもほんの少し温かく、誠実で、愛と友情に溢れた国なのではないか。まさに「高橋克彦版日本史」とも呼ぶべき、前代未聞の物語になったにちがいない。
インタビューの翌月から連載はスタートした。最初の原稿を編集部で待っていた夜のことを今も鮮やかに思い出す。かすかな音を立てて震えるファクシミリが一枚目の原稿を吐き出したとき(その頃はメールもインターネットもなかったので、ワープロ原稿をファクスで送ってもらっていたのだ!)、ひときわ大きく印字された「日本繚乱」というタイトル文字。そう、「新諸国物語」という仮題は「日本繚乱」という名に変更されていたのだ。
先生はタイトル付けの天才で、どの作品も唸るほどうまいのだが、なかでも「日本繚乱」は最高傑作だと思う。初めてこのタイトルを見たとき、私は自分が大きな日本地図の上に立って、その地図ごと宇宙空間に浮かんでいるような気がした。この日本列島に乗っかって、古代から未来まで、日本各地に残る物語を探す旅に出るのだ。長い旅になるだろう。そしていつか、美しい花々が咲き誇るようなすばらしい作品集ができあがる……。まだ見ぬ物語集の完成を思って私は興奮していた。たぶん、デロリアンに乗り込むマーティや、タイムマシンを前にしたのび太もこんな気持ちになったにちがいない、と思いながら。
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