- 2014.12.02
- 書評
赤身熟成塊肉、食のボーダレス化――
最新東京食事情がこの1冊でわかる!
文:柏原 光太郎 (『東京いい店うまい店』担当編集者)
『東京いい店うまい店 2015-2016』 (文藝春秋 編)
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#趣味・実用
東京オリンピックの誘致成功で、日本はこれまで以上に観光立国へ舵を切りました。観光庁は「観光立国推進基本計画」を制定し、国交省はレストラン向けに「多様な食文化・食習慣を有する外国人客への対応マニュアル」を作成、経産省も「クールジャパン戦略」を推進し、2015年に行われるミラノ万博の日本館では、農水省とともに日本の食文化の発信を大々的に行う予定です。
こうした動きに呼応するように、東京のレストランはこの2年で大きく変わりました。その背景にあるのは、外国人客比率の高まりです。銀座の有名寿司屋などはカウンターの半分以上が外国人客で埋まることも珍しくありません。「和食」の世界無形文化遺産認定の影響も大きいでしょう。
この1年の食分野最大のトレンドは、なんといっても赤身熟成塊肉ブームです。霜降りから赤身という流れは、牛肉を日常食とする外国人居住者が増えていることから分析できますが、その赤身肉に熟成という方法で、旨味を加えるというのが繊細な日本人らしさだと思います。ただ、最近は安易に熟成を謳い、腐敗と紙一重の店も多いとか。きちんとした情報を得ることが必要です。
各国料理も多彩になってきました。中でも注目はペルー料理、シンガポール料理、インド料理です。ペルー料理は国際的な流行ですし、シンガポール料理はアジアで一番活気がある国のトレンドを取り入れたもの。インド料理店は昔からありますが、バターチキンとナンだけではなく(この料理を出すのは北インドだけ)、地方ごとの特色がある料理を出す店がたくさんできています。
これは中国料理も同様。四川料理の流行はここ数年の特徴ですが、最近は羊料理が名物の東北料理店が多くなってきています。そこに山西料理、湖南料理など、特色のある中華料理店も出てきています。こうした国や地方出身の外国人が日本にどんどん来て、自分たちの身近な文化を発信しているということでしょう。
もちろん、日本人シェフもさまざまな取り組みをおこなっています。そのひとつの潮流は「ボーダレス化」。〆に炊き込みご飯が登場しながらもしっかりフレンチのテイストになっている店や、インド料理とフレンチの融合したビストロ、割烹料理からハムカツ、カレー、パフェまで美味い日本料理店、胡麻豆腐や鱧の湯引きなど和食の枠組みにスパイスをうまく使った日式中華料理店など、いまやカテゴライズすることがむずかしい店もいろいろ出てきました。
カジュアルなのに味は本格派の店も増えています。深夜まで美味しい料理の食べられるカウンター中華や、料理は一品だけだが行列もできるエスニック料理店、半年先まで予約の取れない赤身肉専門店などは、ぜひ訪れていただきたいレストランです。
なぜかいい店がかたまって出来る地域というのも存在します。ここ数年、荒木町(四谷3丁目)には鮨屋、居酒屋、日本料理店などの良店が数多くできていますが、さらに中国料理店、焼鳥屋、甲殻料理専門店も増えました。蕎麦なら阿佐ヶ谷。この1、2年でざっと数えても4軒ほどうまい蕎麦屋が出来ました。
寿司ブームは相変わらずですが、今回は銀座に出来た2軒、女性寿司職人と20代の若手寿司職人に注目しています――。
いまはネットのグルメサイトが全盛ですが、ネットでは写真映えがよく、わかりやすい味の料理を出す店が評価される傾向にあり、自分の舌よりも周囲の情報に左右されるレビュアーも多い。それに対して、本書はあえて写真を排し、選定に関わった覆面探偵の諸氏には言葉のみで店の良さを伝えていただいています。今回も多くの筆者が都内各所を駆け回って、美味しい店を探してきました。ぜひ本書を手に取って、自分の好みにぴったりの店をお探しください。
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